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「ピカドン」初版復刻 丸木夫妻作 被爆の惨状伝える 占領下1950年発行 紙の風合いも忠実に

 日本がまだ連合国軍の占領下にあった1950年に発行され、広島の被爆の惨状を絵と文でつぶさに伝えた小冊子「ピカドン」が、初版の体裁を忠実に再現して復刻された。「原爆の図」で知られる画家の丸木位里・俊夫妻の作。3千部がすぐ売り切れたという初版が73年ぶりに、当時のザラ紙の風合いもそのままによみがえった。(編集委員・道面雅量)

 初版は四六判(縦12・7センチ、横18・8センチ)で、表紙を含めて68ページ。東京・銀座のポツダム書店が50年8月6日付で発行し、定価は30円だった。

 位里の両親をモデルとする三滝町(広島市西区)の老夫婦を軸に、人々の被爆体験や、被爆地に出現した光景がつづられていく。迫真性に満ちた絵は作家の大江健三郎さん(今年3月に88歳で死去)も高く評価し、著書「ヒロシマ・ノート」(65年)のカットに使った。

 初版は表紙に「平和を守る会篇(へん)」とある。朝鮮戦争が始まる緊迫した情勢下、運動団体の宣伝物の機能も担ったと思われる。3千部が出た後の再版では「守る会」の表記を消したものの、占領下の政令第325号(占領目的阻害行為処罰令)違反に問われ、原画や本の多くが押収されたという。70年以降、英訳付きなど7種類の復刻版が刊行されたが、初版の忠実な再現は初めて。

 企画した原爆の図丸木美術館(埼玉県東松山市)の岡村幸宣(ゆきのり)学芸員は「核戦争の脅威が迫った50年代の空気が身近に思える今、この小冊子が人から人へ手渡された当時の息吹もよみがえらせたい」と願う。琥珀(こはく)書房(京都市)刊。研究者5人が寄稿し、上映用に作られた幻灯版のカラー画像も収めた解説集「『ピカドン』とその時代」とセットで1980円。

(2023年9月15日朝刊掲載)

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