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社説・コラム

社説 露朝首脳会談 北の核戦力増強を危惧する

 ロシアのプーチン大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記が極東のロシア宇宙基地で会談した。4年前の前回会談と違うのは、ともに国際社会から孤立したことだ。

 ウクライナ侵攻を続けるロシア。米国と合意した「非核化」に背を向け、核・ミサイル開発を強行する北朝鮮。蜜月ぶりが懸念されるのは、さまざまに国際情勢に影響を及ぼす恐れがあるからだ。

 北朝鮮のメディアは「満足できる合意と見解の一致」に達したと表現した。軍事協力の強化で両国が合意したことは容易に想像できる。

 まずはウクライナである。北朝鮮はロシアの侵攻を支持した。東部の激戦地が膠着(こうちゃく)状態にある中、ロシア軍は銃火器や弾薬の不足に直面する。その分を、口径などの仕様が共通する北朝鮮から補うロシアの狙いが読み取れる。

 北朝鮮の弾薬は劣化が指摘され、ロシアが主導して同国で生産強化に入る、との見方すらある。こうした動きがロシア軍の立て直しに結びつくなら、悲惨な戦争のさらなる長期化につながってしまう。

 北朝鮮が期待している「見返り」はもっと大きいのかもしれない。国連安全保障理事会で常任理事国のロシアの後ろ盾を確固たるものにすると同時に、宇宙大国ロシアが最先端のロケット、ミサイルの技術供与をする可能性をプーチン氏自身が示唆した。

 北朝鮮は軍事偵察衛星の打ち上げを2回、失敗した。ロシア技術の導入によって米国本土もにらむ大陸間弾道ミサイル(ICBM)の性能が向上することも予想される。今後の状況によっては、ロシアが保有する核弾頭に関する情報や原子力潜水艦の技術が渡ることも否定できない。

 もとより旧ソ連は長く北朝鮮の友好国であり、軍事面の支援が行われてきた。ただソ連崩壊後のロシアは友好善隣協力条約を結びつつも、北朝鮮の核武装は望まなかった。かつて関係国の枠組みで朝鮮半島の非核化を模索した6カ国協議ではロシアが一定の役割を果たし、国連による北朝鮮への制裁決議にも昨年までは反対してこなかった。

 今回の首脳会談に合わせ、国連の北朝鮮制裁にロシアが同調しない方針を鮮明にした影響は大きい。ウクライナ侵攻への協力と引き換えにロシアが核戦力の強化を直接支援する。そんな構図になれば、国際社会が長い時間をかけてきた朝鮮半島の非核化プロセスは完全に挫折する。

 核拡散防止条約(NPT)体制がただでさえ形骸化し、核兵器廃絶はおろか核軍縮・不拡散すらおぼつかない現実を考えると、事態は深刻だ。被爆地の広島・長崎からしても決して看過できない。

 第2次岸田再改造内閣は基本方針に次の項目を掲げた。「核兵器のない世界」への取り組みを主導する。拉致問題解決へ取り組む―。ただ条件なしで日朝首脳会談を望んだ岸田政権の意向に対し、冷え切った関係を打開する兆しはまだない。政権浮揚の切り札として起用された上川陽子外相は、目の前の難題に向き合う手腕がすぐに問われる。

(2023年9月15日朝刊掲載)

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