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社説・コラム

天風録 『独裁者の握手』

 90年前、政権を取ったヒトラーは強国ドイツの復活を夢想して布石を打つ。イタリアの協力を得ようと、独裁政治の師匠でもあるムソリーニ首相を招く。宿泊する部屋に首相の故郷の写真を用意し、野外集会で「真の天才」とおだてあげる▲巨大な軍需工場や軍の演習の見学で、ドイツの力を見せつけることも忘れない。歓待が奏功し、2人の独裁者は固い握手で結ばれる。その結果、欧州中が戦火に見舞われてしまうのだが▲今また、独裁者2人の握手が世界を不安に陥れている。ウクライナ侵攻の暴挙に出たロシアのプーチン大統領が、核兵器・ミサイル開発を強行し続けている北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記を招待した▲どういう風の吹き回しだろう。格下扱いしていた金氏を歓待するとは。戦果が上がらず苦境に陥っている証しなのか。ロケット打ち上げ基地を会談場所にしたことで、高い技術力をちらつかせて北朝鮮から相互支援を引き出そうとする狙いが透ける▲繰り返し生まれてくるのが独裁者なのかもしれない。権力亡者が互いに手を取って暴れ回っても、思い通りにはさせない―。そのための知恵を私たちは持っているのか、昔も今も問われている。

(2023年9月15日朝刊掲載)

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