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社説・コラム

社説 [地域の視点から] 岩国基地の訓練拡大 なし崩しの常態化を懸念

 空母艦載機部隊の移転完了から5年余り。米軍岩国基地(岩国市)を拠点とする訓練の様相が変わりつつある。  7月には沖縄・嘉手納基地などの空軍機が20機余り飛来し、日本周辺の大規模演習の一環として20日間にわたって訓練を展開した。その分騒音は激しく、市に500件を超す苦情が寄せられた。

 昨年も約1カ月間、米国から空軍の30機が岩国に飛来して訓練を行っている。同様の事態が来年以降も続くことは容易に想像できよう。

 2010年に完了した滑走路の沖合移設に乗じた神奈川・厚木基地からの艦載機約60機の移転を、市は容認した。基地関連の交付金や補助金の恩恵も大きい。「これ以上の基地機能強化は認めない」というのが市の姿勢だが、外来機訓練が常態化すれば新たな負担増と考えざるを得ない。

 もはや沖合移設前の騒音に戻った―。そんな受け止めも地元で広がる。近隣2市2町と山口県は8月下旬の国要望で騒音増大の懸念を伝えたがどこまで歯止めとなるか。

 神奈川・横須賀基地を拠点とする空母は、5月から11月ごろに海外展開する。岩国の艦載機も不在となり、その間の騒音は小さいと考えられてきた。不在期間を利用するかのように、他基地から飛来するのは想定外である。  その艦載機にしても8月に一時的に岩国に帰還して訓練する年があり、ことしは70デシベルを超す騒音の回数が沖合移設後の8月では最多だった。

 基地運用の多様化の背景に台湾海峡有事をにらむ対中戦略があるのは疑いない。7月の空軍機の訓練は中国に近い嘉手納基地へのミサイル攻撃を想定し、空軍力を分散させる備えでもあったようだ。

 一つ言えるのは岩国が米軍にとって使い勝手のいい基地となり、戦略上の重要性を増したことだ。もともと周辺空域は米軍が管制している。さらに沖合移設に併せて港湾機能を充実させ、艦船の行動との連携も容易になった。

 2月には岩国を拠点に、米海軍の輸送揚陸艦と海上自衛隊の輸送艦の共同訓練が広島湾で初めて実施されている。自衛隊と一体化した訓練を含め、今後もさまざまな形で使われていく可能性は高い。

 在日米軍の歴史をたどると「一時的」が恒常化するなどなし崩し的に運用が拡大した例は幾つもある。住民の理解がないまま基地の負担だけが増えていくのを危惧する。

 万一の際、攻撃を受けるリスクがあるのは沖縄だけはないはずだ。目先の騒音への対応にとどまらず基地の運用に言うべきことは言う姿勢が、さらに必要となる。極東最大級の航空基地のありように足元から目を光らせ続けたい。

(2023年9月17日朝刊掲載)

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