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「核なき世界」へ 手腕注目 首相 国連会合で発信

 岸田文雄首相は米ニューヨークで19日午後(日本時間20日午前)から、国連総会や国際会合に出席する。国連本部で一般討論演説に臨むのをはじめ、核兵器の原材料となる核物質の生産を禁じる条約の実現への機運向上を目的とする会合を開く。ウクライナに侵攻したロシアが核の脅しを続け「核兵器のない世界」への道のりには逆風が吹く。被爆国のリーダーの手腕が注目される。(ニューヨーク発 山本庸平)

 一般討論演説は、各国の首脳たちが国際的な課題に対する自国の取り組みを発信する。岸田首相は、核軍縮の取り組みには各国政府だけでない重層的な取り組みが重要と説く方針でいる。海外の研究機関やシンクタンクに30億円を拠出し、担当者を置いてもらった上でセミナーなど議論の場を増やす考えを示す。

 一般討論演説に先立ち、日本政府は国連本部近くで兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)への関心を高める会合をフィリピンやオーストラリアと共催する。新たな核開発や保有国の増加を抑える効果が期待できる条約で、1993年9月に当時米大統領のクリントン氏が提案。しかし、30年を経ても制定どころか各国の交渉すら始まっていない状況だ。

 首相は昨年8月、行動計画「ヒロシマ・アクション・プラン」を提唱し、条約の交渉開始を呼びかけた。ことし5月に広島市であった先進7カ国首脳会議(G7サミット)では、核保有大国の米英仏を含むG7首脳が一致して、核軍縮文書「広島ビジョン」の中で交渉の即時開始を各国に求めた。こうした動きには、不透明な形で核戦力を増強している中国への懸念があるとみられる。

 会合では、首相は条約の必要性を各国の首脳や閣僚に説く。日本政府は「グローバルサウス」と呼ばれる新興・途上国の関与を期待しており、広島サミットにもインドやブラジルといったリーダー格の国々を招いて被爆の惨禍を伝えている。

 外務省幹部は核の問題について「安全保障と表裏一体で合意が難しい」とみる。首相が今回の会合を制定に向けた具体的な一歩にできるかが問われる。

 首相はウクライナ情勢をテーマにした国連安全保障理事会首脳級会合にも出席。21日(日本時間22日)に帰国の途に就く。

(2023年9月20日朝刊掲載)

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