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「広島初」洋菓子店 愛され100年 中区の「ボストン」 被爆後の市民 ケーキで笑顔に

 アップルパイなどで知られる洋菓子店「ボストン」(本店・広島市中区堺町)が今月、創業100年を迎えた。広島初とされる洋菓子工房。「お菓子で笑顔を届ける」の理念を掲げ、街の歴史を見つめてきた。(栾暁雨)

 創業者の栗栖百三郎(1964年に86歳で死去)は明治期にハワイへ渡り、米国各地のホテルでコックを務めた。帰郷後の23年、前身の店「朝日ドーナツ」を現在の中区広瀬北町に開き「舶来の菓子」と評判になったという。

 26年には、繁華街だった旧中島本町(現在の平和記念公園)に喫茶店を開業。当初は繁盛したが福屋百貨店の誕生などでにぎわいが八丁堀付近に移り、コレラ流行も重なって十数年で閉店した。

 戦中疎開していた一家は被爆後の中区に戻り、2代目がバラック建ての工房を再開。材料をかき集めロールケーキを売り出した。ジャムを塗っただけだったが、甘いものを求める多くの人に歓迎された。やがて米国の代表的な菓子であるアップルパイなどの看板商品を作り、歴史ある街を店名に。リンゴをシンボルマークに掲げた。

 広島電鉄の土橋電停前に店を移したのは80年代という。「『お客さまに接しないと流行をつかめない』と先代は電車通りでの出店にこだわった」と4代目の栗栖一典さん(57)は振り返る。栗栖さんが2006年の社長就任を機に作ったスティックケーキは「手を汚さずにすむ」と1番人気だ。

 コロナ禍で手土産の需要が落ち込み、小麦粉や卵は高騰。それでもチャレンジを続ける。糖質オフの流れに合わせ、生クリームを減らす代わりに果物などで自然の甘みを足す。「インスタ映え」も意識する。8月には県産の果物と牛乳を使ったジェラートを発売した。

 栗栖さんは「広島と共に歩んだ味を守りながら、ニーズを捉えた新しいお菓子を作っていきたい」と意気込んでいる。

(2023年9月21日朝刊掲載)

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