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社説・コラム

『潮流』 多様性を生ける

■報道センター文化担当部長 片山学

 直木賞作家今村翔吾さんの小説「ひゃっか!」(文響社)は、高校生の男女が生け花の全国大会の頂点を目指し、困難を乗り越えていく青春ドラマだ。時代小説の旗手による異色作を一気読みした。登場人物たちが飛び出してきたような別の大会で、審査員を務めさせてもらったからだ。

 高校生が3人一組で生け花の腕前を競う「Ikenobo 花の甲子園」の中国地区大会が今月上旬に開かれた。バラやリンドウなど当日会場で配られた14種類と一つ持ち込める花材を組み合わせ、30分の制限時間内にアイデアを凝らした作品を仕上げていく。

 季節ごとの色とりどりの花、すっと伸びた枝、丸い葉…。最近は海外からの花材も扱う。それらの調和を大切にする華道の精神に触れることができた。

 向き合う3本のヒマワリを主役にした作品が印象に残った。いろいろな人が話をしている様子を表現したという。「他人を理解できる人になりたい気持ちを込めた」という生徒の思いに共感した。

 多様性を認めることは、自分本位な強者の論理が世界中でまかり通るいまこそ必要ではないか。審査を終えた帰り道に、ふと思った。

 ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアのプーチン大統領の執務室に飾るなら、どんな生け花が良いだろう。黒帯の柔道家は華道にも理解を示すだろうか。

 ロシアとウクライナの国花は共にヒマワリである。地球に見立てた花器で向き合う大輪に、周辺の国の草花を添えよう。相手を思いやる気持ちが芽生えてほしい。「ひゃっか!」のライバルたちは、互いを認め合うことで成長していく。

(2023年9月21日朝刊掲載)

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