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「核なき世界」 行動強化 首相、国連演説 議論促進に30億円

 岸田文雄首相は19日(日本時間20日)、米ニューヨークで国連総会の一般討論演説に臨んだ。「核兵器のない世界」に向けた取り組みを強化すると主張。核軍縮の議論を促すため、海外の研究機関やシンクタンクに30億円を拠出すると表明した。国連の機能強化を目的に、安全保障理事会の改革も訴えた。(ニューヨーク発 山本庸平)

 核軍縮では研究機関などに資金を出し、「核兵器のない世界に向けたジャパン・チェア」という専門家のポストを設置するとした。セミナーなどでの幅広い議論を促し、広島市での先進7カ国首脳会議(G7サミット)で深まった国際的な議論の発展を目指す。「抑止か軍縮かの二項対立を乗り越える」とも唱えた。

 国際社会が分断を深めているとの認識を示し、人類が共有できる「人間の尊厳」に光を当てた国際協力を訴えた。気候変動、感染症、法の支配への挑戦などにより「世界は複雑で複合的な課題に直面し、各国の協力がかつてなく重要になっている」と指摘した。

 ウクライナ侵攻を続けるロシアを「国際法をじゅうりんしている」と非難した。中国とロシアを念頭に、国連安保理常任理事国による拒否権の乱用は「国連の分断・対立を悪化させる」とし、行使抑制の取り組みが「安保理の強化、信頼につながる」と指摘。「常任・非常任理事国双方の拡大が必要」と主張した。

 東京電力福島第1原発の処理水の海洋放出には触れなかった。政府関係者は「中国側と批判の応酬になる懸念があった」と説明した。中国による日本産水産物の輸入停止撤廃に向け、中国を過度に刺激するべきでないと判断したとみられる。

【解説】 核廃絶へ たゆまぬ前進を

 岸田文雄首相が国連総会の一般討論演説で、いま取り組むべき国際協力の具体例として真っ先に挙げたのは核軍縮だった。ロシアによるウクライナ侵攻などで世界の分断と対立が進む中、ライフワークとする「核なき世界」への強い意欲をにじませた。実現にはたゆまぬ前進が欠かせない。

 演説では、核兵器数の減少傾向の維持など「現実的」な取り組みを推し進めると強調した。「現実的」は従来から繰り返し使ってきた言葉だ。

 5月に広島市であった先進7カ国首脳会議(G7サミット)での共同文書「広島ビジョン」でも、核保有国を含むG7首脳が「現実的」なアプローチを通じて核なき世界を目指すことを確認した。参加首脳に被爆の実態を見せるなどの取り組みも一定に進めてきた。

 一方で、物足りなさが残る。広島ビジョンは核抑止論を事実上肯定した。今回の演説でも、多くの国連加盟国が参加する核兵器禁止条約には言及しなかった。米国の「核の傘」に守られている現状を反映していると受け止めざるを得ない。

 ロシアの核威嚇や中国の核戦力の増強など核軍縮議論への逆風は強い。被爆地が求める「核抑止論からの脱却」を「非現実的」とせず、幅広い可能性を探ることが重要だ。

(2023年9月21日朝刊掲載)

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