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遺品 無言の証人

[無言の証人] 意識呼び戻してくれたラジオ

静けさ破る音 命救う

 被爆時に壊れたラジオ。半年ほど音を出したというが、雑音まじりで、がらくた同然。それでも持ち主の土屋義信さん・静枝さん夫妻は「自分たちを助けてくれた」と大切に手元に置いた。

 1943年8月に結婚した際、静枝さんの父から贈られた。当時の最新型。真新しいラジオに2人は「所帯を持ったのだ」と実感した。

 あの日の朝、静枝さんは山手町(現広島市西区)の自宅で爆風を受け、飛ばされた。暗闇の中、不気味な静けさを破るかのようにラジオから「ゴー、ゴー」という音が聞こえ、意識が戻った。迫り来る炎から逃れることができた。

 広島憲兵分隊の中尉だった義信さんは、爆心地から約700メートルの光道国民学校で被爆した。同僚らは「熱い」と防火槽に身を投げ、折り重なるように亡くなった。逃げる途中でいくつもの死体を越えた経験は「悲惨を通りこえた生(いき)地獄だった」と手記(69年)で振り返っている。

 静枝さんは被爆時、妊娠8カ月で8月6日は検診日。「壊れたラジオのおかげで無傷だった」。義信さんはその18年後、永久保存を願って原爆資料館に寄贈した。(新山京子)

(2023年9月25日朝刊掲載)

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