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社説・コラム

天風録 『「明日の神話」を明日へ』

 鮮烈な色彩と形が訴えかけてくる。その絵の前を通りがかれば、立ち止まりそうなものだが、大勢が目もくれずに通り過ぎていく。東京・渋谷駅に設置されている岡本太郎の巨大壁画「明日の神話」のことだ▲原爆さく裂の瞬間を題材に、半世紀以上前に制作された。縦5・5メートル、横30メートルもある作品は15年前にここへ。「駅の顔」とも呼んでいいものだろう。広い通路で圧倒的な存在感を放っているのに、埋没してはいないか▲広島に誘致する活動もあっただけに、じっくり見上げる人が少ない現状は残念だ。その上、傷みが目立つらしい。亀裂や剝落、変色…。都心の駅で電車などの振動もあるのだろうか。来月から数年間にわたる修復作業に入るという▲「原爆の図」の一部が修復を終えた。丸木位里と妻俊による被爆者のびょうぶ絵は約70年間、国内外を巡って見る人の胸を打ってきたが、劣化も進んでいた。修復されて、戻った埼玉の美術館。今度は館を絵の「安住の地」にする改修工事が控える▲核なき世界への道のりは長く遠い。歩んでいく上で、原爆の悲惨を伝える作品はかけがえがない。大切に保存・継承して、強いメッセージを放ち続けてもらわなくては。

(2023年9月24日朝刊掲載)

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