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社説・コラム

社説 劣化ウラン弾供与 非人道兵器 また使うのか

 非人道的な兵器の使用を、これ以上、見過ごすわけにはいかない。

 ロシアの侵攻を受けるウクライナに対し、米国が放射能兵器と呼ばれる劣化ウラン弾の供与を決めた。英国に続き主力戦車の砲弾として渡すという。先んじて多数の子爆弾をまき散らすクラスター(集束)弾を供与したばかりだ。

 ウクライナ侵攻は明白な国際法違反で、民間人への無差別攻撃など数々の戦争犯罪も決して容認できない。だからといって、ロシアを勝たせないようにと自らも非人道的な手段をとっては本末転倒だ。国際秩序を揺るがす。

 劣化ウラン弾は「通常兵器」として各地の紛争で使われてきた現実がある。だが本来、核兵器と同じく使用を禁じるべき非人道的な兵器だ。

 そもそも劣化ウランは、核兵器の製造や原発用に天然ウランを濃縮する過程で生じる廃棄物で、微量の放射性物質を含む。それを使った砲弾が命中すると高熱で燃え、微粒子の酸化ウランが拡散して放射線を発する。吸い込むと、体内被曝(ひばく)を引き起こすとされる。住民や兵士の健康被害や環境汚染をもたらし、しかも影響が長期間にわたると指摘されてきた。使用への批判が根強いのは当然だろう。

 米国は、ウクライナが反転攻勢で優位に立てるとみて供与を決めた。劣化ウラン弾は主力戦車から発射でき、質量が重く、戦車の装甲を貫通するほどの破壊力がある。英国と共に「放射線の脅威はない」と言い切っての投入だ。

 戦況の好転を狙い、危険性を軽視し、非人道的な兵器を導入するのは言語道断だ。

 実戦で大量に使用した1991年の湾岸戦争を振り返ってみれば、戦場となったイラクの住民に白血病やがんが増えた。現地の医師は劣化ウラン弾の影響とした。帰還した米兵たちの体調不良も相次いだ。イラク戦争やボスニア・ヘルツェゴビナ紛争でも使われ、被害が報告された。

 ウクライナで大量に使われたら、戦後の復興を妨げる恐れもあろう。砲弾の破片や、被弾した戦車の残骸が国土に放置されれば、放射線の影響がないとは言い切れない。

 侵攻が長引くにつれ、欧米は供与する兵器の種類を拡大してきた。ロケット砲やミサイルに加え、戦車や戦闘機も認めた。近く米国は長射程の地対地ミサイルの提供に踏み切るとみられる。クラスター弾を使うタイプという。

 非人道的な兵器による応酬がエスカレートしかねない。さらにロシアのプーチン大統領に、核戦力による脅しの口実を与える恐れがある。現に英国が劣化ウラン弾の供与を表明した後、プーチン氏は同盟国ベラルーシへの戦術核兵器の配備で対抗した。

 劣化ウラン弾については、生物兵器や化学兵器、対人地雷、クラスター弾などのように保有や使用を制限する国際的な枠組みすらない。

 日本は速やかに、使用禁止を呼びかけるべきだ。併せて武器支援よりも、侵攻を終わらせる外交努力を欧米に促してほしい。それが被爆国、平和国家としての役割だろう。

(2023年9月24日朝刊掲載)

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