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連載・特集

近代発 見果てぬ民主Ⅷ <8> 普通選挙 金権腐敗と権力争い 過熱

 「昭和維新輿論(よろん)政治ガ実現スル」。昭和3(1928)年2月の第1回普通選挙の投票を呼びかける内務省の啓発ポスターに書いてある。国民を輿論政治に参画させる選挙のはずが、二大政党間の争いが過熱。理想と現実は違っていた。

 政権が交代すると、まず知事が代わった。広島県の場合、政党政治が行われた8年間に7人という目まぐるしさ。予算執行権や道路河川関連の許認可権などを使って党勢拡大を図り、知事の政党化が進んだ。

 知事に続き、選挙を取り締まる警察部長や警察署長の異動となる。同県の元警察署長の回想によれば、選挙前になると政党有力者が訪ねてきたという。

 有力者は「味方すれば栄転、反対党に付くならクビ」とほのめかす。元署長はなんとか節操を保ったが、選挙の腐敗が増すにつれて警察内の空気も一変。「積極的に政党に接近し、巧みに両党を操縦する者が人事上の勝利者となった」という。

 最初の普通選挙は、政友会の田中義一内閣の成立から10カ月後だった。選挙を有利に戦うため、田中首相は地方官僚を異動させてから衆院を解散した。

 警察は与党を支援し、野党候補に圧迫干渉を加えた。投票3日後の全国集計では、違反で起訴されたのは政友会の147人に対し民政党は539人と3・6倍の大差。「捜査の不公平の結果か」と当時の記事にある。

 選挙ブローカーに多額の買収資金が渡り、有権者にばらまかれた。広島県佐伯郡では買収罪で村議や前村長を含む50人余りが起訴された。1票50銭か1円で投票を依頼したのは政友会候補の陣営だった。与党でも見過ごせないほど大っぴらに買収が行われたのだろうか。

 普通選挙で有権者数は約4倍に。「従来のような金の使い方はできず、選挙は浄化される」との期待は外れた。政党は膨らむ選挙費用の提供を財界に求めた。金権腐敗と権力争いは深刻な政党不信を招く。(山城滋)

第1回普通選挙
 昭和3年2月20日に中選挙区制で実施。当選者数は広島県で政友会7、民政党6。中国地方で政友会24、民政党16、中立2。全国では政友会217、民政党216で無産政党は計8。投票率80.3%。

(2023年9月26日朝刊掲載)

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