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社説・コラム

『潮流』 死者に聞きたい

■ヒロシマ平和メディアセンター長 金崎由美

 カナダに住む被爆者サーロー節子さん(91)は5月から約3カ月間、一時帰国し古里広島で過ごした。私にとって、本人の半生記を共著で出版した2019年以来の再会。被爆者としての思いを改めて聞く機会となった。

 原爆投下を是とする世論が圧倒的だった北米で反核運動に立ち上がったのは50年余り前。17年には核兵器禁止条約の採択を国連で見届け、さらにノーベル平和賞授賞式に登壇した。いつも心にあるのは「無念の死者と共にあろう」とする意志だという。

 被爆者たちは声なき犠牲者の代弁者となる決意を胸に、自らの背を押して証言活動や被爆者運動を積み重ねてきたのだと思う。風化と忘却にあらがう姿を通して、私たちはときに犠牲者の存在を感じ取る。

 同時に、不可能だと分かっていても、1945年末までに推計14万人という死者に直接聞きたくなる時もある。爆心直下で瞬時に命を消された人や、被爆後に塗炭の苦しみの末、絶命した人に。

 先日、広島市の平和記念公園と米真珠湾の国立記念公園が結んだ姉妹協定に関し、米国の原爆投下責任を巡る議論を市は一時「棚上げ」するとした。死者に声があれば、何を語るだろう。

 核兵器使用の危険がこれまで以上に高まっている今、人類のための「繰り返さない」決意を世界に発信しなければならない時である。

 一方で、78年後もなお核兵器を大量保有する国への問いかけを控えることが和解の精神であり、「繰り返さない」ためになると言われたら、死者は納得するか。「無念の死者と共にあろう」との言葉を反すうしながら、今を生きる私たちが議論すべきことを考えている。

(2023年9月28日朝刊掲載)

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