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社説・コラム

天風録 『永遠の化学物質』

 分解に時間がかかって環境に長く残るため「永遠の化学物質」と呼ばれる。1万種以上あるという有機フッ素化合物(PFAS)のことだ。水や油をはじく上、熱にも強い便利な性質が買われ、フライパンなど暮らしの中でも役に立ってきた▲最初の使い道は80年ほど前のマンハッタン計画だった。原爆の材料にするウランを濃縮する際、腐食性の強い物質を扱うのだが、月並みな素材だと溶けてしまう。発見間もないPFASの一種が、その難題を解決した▲近年は、泡消火剤として使われていたPFASの一種に発がん性があることが分かった。各国が規制を強める中、沖縄の米軍基地では多く残されていたらしい。外に漏れ出したこともあり、住民には不安が広がっている▲水質調査の動きが、米軍岩国基地の周辺でも出てきた。てっきり、政府か自治体が重い腰を上げたのかと思ったら、実施したのは米国の市民団体という。ありがたいと思う半面、他人任せのようで何だか情けない気も▲科学が生み出した素材が生活を豊かにすることも多い。とはいえ、環境や人体への悪影響と、便利さとは引き換えにできない。モノではなく、生き物こそ永遠であってほしい。

(2023年10月2日朝刊掲載)

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