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社説・コラム

社説 核のごみ調査 対馬「反対」 カネ頼みの適地探しは限界

 長崎県対馬市の比田勝(ひたかつ)尚喜市長は、原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場選定に向けた文献調査に応募しない考えを示した。受け入れ促進の請願を賛成多数で採択した市議会とは正反対の結論である。

 市議会での賛否は10対8の僅差。住民には、第1次産業や観光業への逆風になりかねないと、反対も根強い。市長が「市民の合意形成が不十分だ」として、分断がさらに広がるのを避けるために下した決断は評価できる。

 調査受け入れに反対した理由として、市長は「想定外の要因による危険性を排除できない」と強調した。「風評被害が出れば、1割の被害でも水産業で16億円、観光でも18億円だ」と指摘。受け入れで最大20億円の交付金が得られたとしても割に合わないことは起き得る。市長が懸念するのも無理はあるまい。

 個人的な思いも口にした。「対馬も被爆県の一部だ。なかなか県民としては受け入れがたい」と。放射性物質による環境や生き物への影響を軽んじることがあってはならない。改めて胸に刻みたい。

 2007年に誘致反対の決議を採択した市議会は、態度を一変させた。背景には重い現実がある。例えば人口は約2万8千人と、1960年のピーク時の4割まで減った。交付金を得て、産業振興や子育て支援に使いたいとの意見が広がったのではないか。

 とりわけ商工会が積極的だった。今春、最終処分を担う原子力発電環境整備機構(NUMO)の担当者を招き、説明会を開いていた。

 こうした前向きな動きが地元にあるのは珍しい。調査を受け入れる自治体がなかなか出てこないため、政府は今年4月、国主導による誘致促進活動へとかじを切った。

 国は「政府一丸となって国の責任で取り組む」と言明。経済産業省や地元電力、NUMOが100以上の自治体を訪問する全国行脚を展開するなど、躍起になっている。

 そこまでしないと進まない証しだと言えよう。実際、受け入れ自治体の公募に、かつて高知県東洋町の町長が名乗りを上げたが、住民たちの強い反発で頓挫。10年以上過ぎた20年に、北海道の2町村が調査を受け入れたものの、その後は再び滞っている。

 国が呼び水として使っているのが、多額の交付金だ。文献調査に続く実地調査を受け入れれば、最大70億円を手にする可能性もある。

 人口減に悩む自治体に、交付金をちらつかせる手法は、原発立地自治体をはじめ、原発関連では定番だ。山口県上関町が調査を受け入れた中間貯蔵施設にも絡んでいる。ただ、過疎に付け込んでいると批判されるのは当然である。

 しかも、どれだけ効果があるのか。今回、自ら飛び込んできたような対馬市まで逃げてしまった。

 これを機に国は、カネ頼みの適地選定の限界を認識し、改めるべきだ。多額の原発関連の交付金を得て活性化した地域があるのか。交付金が発展にはつながらないことを多くの自治体は学んでいる。

(2023年9月30日朝刊掲載)

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