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社説・コラム

社説 岸田政権2年 国民に向き合う政治を

 岸田文雄政権はきょう、発足から2年を迎える。

 「分配なくして成長なし」のフレーズに、国民はアベノミクスから家計重視の経済政策への移行を感じ取った。「国民の声を聴き、政治生命を懸けて新しい選択肢を示す」の決意で、強権的な安倍、菅両政権と違う政治を目指すと心待ちにした。

 こうした発足当初の期待からすれば、この2年間の物足りなさは否めない。

 その中で、「核兵器のない世界」の実現をライフワークとする岸田氏が主導して5月に先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)を実現したことは評価したい。これほど核問題を国際舞台で口にする首相はいない。岸田氏でなければ広島開催もなかった。

 手腕が問われるのはこれからだ。核軍縮文書「広島ビジョン」は核抑止力を肯定し、被爆者を落胆させた。被爆者と「思いは共有している」と語る以上、被爆者の悲願として発効した核兵器禁止条約との接点を探る必要がある。広島サミットが「歴史的」(岸田氏)だったかは、核軍縮・不拡散がどう進展するかに懸かるのは言うまでもない。

 岸田氏はおとといの本紙インタビューで、この2年間を「先送りできない課題に向き合い、勇気を持って取り組んできた」と振り返った。そのプロセスで国民の幅広い合意形成に努めたとはいえまい。低迷する内閣支持率が示している。

 例えば、防衛力の抜本強化である。敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有や防衛費の大幅増など戦後の安全保障政策を大転換した。安倍政権からの「宿題」をロシアのウクライナ侵攻に便乗する格好で推し進めた印象さえある。

 岸田氏はかねて護憲路線のハト派とみられてきた。自民党岸田派として引き継ぐ宏池会は先の大戦を教訓に、軽武装・経済優先を理念としてきただけに違和感は拭えない。

 岸田氏は現実主義を強調するが、防衛費増額は金額ありきで財源確保の議論を後回しにするなど、場当たり的な対応が目立つ。国会審議で敵基地攻撃能力を行使する場面を問われても正面から答えず、同じ内容や具体性の乏しい答弁を繰り返した。そんな姿勢が議論の深まりを妨げた。

 一方、看板政策では戦略性が乏しい。「何をやりたいのか、よく分からない」という国民の声につながっているのではないか。「新しい資本主義」はいまだ内容が判然としない。持続的な賃上げをどう実現していくのか、練り直しが求められる。

 「異次元の少子化対策」で児童手当の所得制限撤廃などを決めたが、年3兆円台半ばとされる財源は定まっていない。出生数の反転は簡単な話ではない。

 岸田氏は就任直後に新書化された自著「岸田ビジョン」で「国民の心に届く説明が非常に重要であると肝に銘じている」とつづる。国民が岸田氏に求めているのは、説明する姿勢ではなく説明の中身だ。国民の疑問や不安を置き去りにするような政権運営は改め、原点に立ち返るべきだ。

(2023年10月4日朝刊掲載)

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