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連載・特集

岸田政権2年 <中> 核廃絶 問われる実行力

 「世界が歴史の転換点にある本年、日本は先進7カ国(G7)議長を務めている」―。岸田文雄首相は9月、米ニューヨークの国連本部での一般討論演説でこう切り出した。「平和への切実な願い、助けを求める脆弱(ぜいじゃく)な人々の声に耳を傾けてきた。分断・対立ではなく協調に向けた世界を目指したい。それが私のメッセージだ」と続けた。

 分断から協調へ―。首相は2020年秋に出した自著「岸田ビジョン」の副題に記した。翌年の首相就任後は「新冷戦」の様相を深める国際社会に対し、重ねて唱える。

首脳外交 活発に

 日本がG7の議長国となった1月以降、積極的な首脳外交を展開。1月に米国や英国、フランスなどG7各国を訪れた。3月はウクライナを電撃訪問し、ゼレンスキー大統領と会談した。ロシアによる侵攻に対して、G7の結束を維持していくと伝えた。

 5月に地元広島市であったG7首脳会議(サミット)はロシアによる核威嚇が続く中、核軍縮を重要なテーマに据えた。米英仏やインドといった核保有国のトップによる平和記念公園(中区)訪問も実現。首相周辺は「核兵器が過去の出来事ではなく、今まさに差し迫る危機として、各国首脳に感じてもらえたのではないか」と、広島開催の意義を代弁する。

 22年5月に広島でのサミット開催を発表した首相。3カ月後には、核兵器のない世界に向けた行動計画「ヒロシマ・アクション・プラン」を提唱した。具体化に向け、核兵器の原料となる物質の生産を禁じる条約制定への機運を高める会合や、国際賢人会議などの取り組みを進める。

被爆者に不満も

 ただ被爆者には不満もくすぶる。広島サミットの共同文書「広島ビジョン」には、核抑止を肯定する記述が盛り込まれた。日本被団協の田中熙巳(てるみ)代表委員(91)は「岸田政権となり、米国への依存が増している。核廃絶に関して中身も実行力もない」と断じる。核兵器禁止条約に背を向ける姿勢にも米国への配慮をみる。

 首相は就任2年を前にした中国新聞のインタビューで、一刻も早い核廃絶を求める被爆者と「思いを共有している」と述べた。胸の内を、どう目に見える形にするか―。実行力が試されている。(山本庸平)

(2023年10月6日朝刊掲載)

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