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社説・コラム

社説 ガザ大規模戦闘 暴力の連鎖 すぐに止めよ

 パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスがイスラエルに対し、大規模な奇襲攻撃に打って出た。ロケット弾数千発を発射した上、ガザとイスラエル領の間の分離壁を破って越境し、兵士だけでなく民間人の殺害や誘拐も重ねたという。

 イスラエル側も、ネタニヤフ首相が「長く困難な戦争に着手する」を宣言して報復攻撃を始めた。激しい戦闘で双方の死者数は既に1600人を超えている。市民を巻き込む無益な戦いを何度繰り返せば済むのだろう。

 ハマスはイランやレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラの支援を受けている。イランやヒズボラを巻き込んだ戦闘に拡大してしまえば事態は泥沼化が避けられまい。国際社会は冷静に対応し、暴力の連鎖をまずは止めることに全力を挙げるべきだ。

 ガザ近くで開かれていた野外音楽フェスティバル会場がハマスに襲撃され、現場からは250人以上の遺体が収容されたという報道には胸が痛む。無差別に市民を殺害する残虐な行為は、どんな理由があろうとも許されない。

 ハマスは民間人や兵士をガザに連行し、100人以上を拘束したとも表明した。「通告なしに攻撃した場合は人質を処刑する」という脅しは、卑劣としか言いようがない。

 ただ、イスラエル側にパレスチナ政策で非はなかったのか。昨年末、首相に復帰したネタニヤフ氏は対パレスチナ強硬派として知られる。境界が封鎖され「天井のない監獄」と言われるガザに、パレスチナ人を押し込め続けてきた人物だ。政権内にはアラブ人に対する人種差別を隠さない極右政党の閣僚もいる。

 4月にはエルサレム旧市街の聖地にあるイスラム教礼拝所「アルアクサ・モスク」にイスラエル警察が侵入し、礼拝にいたパレスチナ人350人以上が逮捕された。今回の奇襲は、抑圧されて続けているパレスチナ人たちの不満が爆発した面もあるのだろう。

 イスラエルとの関係改善が進んでいたアラブ諸国の態度を見ても分かる。サウジアラビアは今回、ハマス批判ではなく、イスラエルの強硬政策が背景にあると強調した。パレスチナ自治政府のアッバス議長も、一線を画してきたハマスに理解を示している。

 米国と英国、ドイツ、フランス、イタリアが共同声明でハマスの攻撃を「テロ」と非難したのとは対照的で、パレスチナ問題の複雑さを浮き彫りにしたとも言える。

 この地域に影響力を及ぼしてきたのは米国で、公平な仲介者の役割が期待されてきた。ところがトランプ前政権はエルサレムをイスラエルの「首都」と認め、大使館移転を強行。国際社会、とりわけアラブ諸国の反発を買った。2国家共存を掲げた30年前のオスロ合意は有名無実化して久しい。バイデン政権は今こそ、その原点に立ち返ってもらいたい。

 日本はイスラエル、パレスチナ双方と良好な外交関係にある。岸田文雄首相が直接、即時停戦を働きかけてもいいのではないか。

(2023年10月11日朝刊掲載)

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