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栄久庵さんの伝記漫画完成 福山ゆかりの工業デザイナー 逸話収集 3年かけ制作

 工業デザイナーの第一人者で、戦後を福山市で過ごした栄久庵(えくあん)憲司さん(1929~2015年)の伝記漫画が完成した。市民有志が寄付を募り、逸話を集めて3年がかりで作った。メンバーは「福山ゆかりの世界的な偉人をもっと知ってほしい」と願う。(筒井晴信)

 栄久庵さんは、同市鞆町で2年間を過ごし、旧制福山誠之館中(現誠之館高)を卒業。東京芸術大を経てデザイン会社を設立し、大手メーカーのバイク、秋田新幹線や広島市のアストラムラインなど列車のデザインも手がけた。国内外で多くの受賞歴がある。

 完成した「福山と広島ゆかりの世界的インダストリアルデザイナー 栄久庵憲司の世界」は、A5判128ページ。鞆町から鉄道で通学した中学時代や、生き方に影響を与えた米国のデザイナーの著作との出合いなどを写真を交えて紹介。キャップの角度を工夫してしょうゆが垂れないようにし、ロングセラーとなった卓上しょうゆ瓶開発の苦労などを描いた。

 被爆後の広島で焼け落ちた街から「悲鳴」を感じ取った体験も紹介。僧侶でもあり、道具に「心」があると考えた栄久庵さんの精神性にも触れた。活躍した時代やものづくりについての解説文も載せている。

 市中心部の大型複合商業施設が閉店し、市内で栄久庵さんの作品を紹介する場が失われたのを機に、有志7人が「顕彰プロジェクト」を立ち上げ制作に着手。関係者に取材し、文献でも逸話を集めた。シナリオは小畑和正さん(66)が担当。取材などに携わった佐野節雄さん(74)は「内面の深い部分も知れた」と話す。

 同プロジェクトの橋本克矢会長(74)は「福山での2年は心の癒やしとなり、デザイナーとしての活動の広がりにつながった。今後も顕彰に取り組みたい」と力を込める。2200円。2千部を印刷し、啓文社など県内の書店で販売している。佐野さん☎090(5696)3370。

(2023年10月11日朝刊掲載)

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