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社説・コラム

『ひと・とき』 ノンフィクション作家 梯久美子さん 広島に原爆文学の拠点を

 「核兵器の使用が懸念されている今、原爆文学は、世界文学たり得る地点に来ている」。サントリー文化財団(大阪市)が9月中旬に広島県庁で開いた「第45回サントリー地域文化賞」の発表会見に、選考委員として出席。被爆作家の資料を集めた文学館の必要性を訴えた。

 2018年に岩波書店から出版した「原民喜」の執筆過程で、広島市立中央図書館(中区)を訪れ、民喜の遺書や直筆原稿に接した。「被爆作家が直接書き残した一次資料は、文学資料であると同時に歴史資料でもある。原爆資料館の遺品と同じくらい、人類が忘れてはならない記録的な文書であり、世界に発信するべき宝だ」と訴える。

 一方で、お膝元の広島でさえ、原爆文学がほとんど読まれていない現状を危ぶむ。「研究者を育てなければならない。小さくてもいいから広島に文学館があれば、そこを拠点に学生たちが研究し、論文を書くはずだ。海外の研究者も訪れるだろう」と説く。

 21年から同賞の選考委員を務めてきた。3度目となる今回は、中国地方の受賞団体に「広島文学資料保全の会」を選んだ。1987年から地元の文学関係者が手弁当で続けてきた活動を高く評価した上で、「本来は行政とともに進めるべき活動。原爆文学の発信は広島の責任でもある。文学館設立へ向け、現実的な動きが始まってほしい」と期待を寄せた。(桑島美帆)

(2023年10月12日朝刊掲載)

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