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「無言の証人」増す役割 「広島原爆遺跡」の史跡指定答申 地元関係者ら 発信に力

 国の文化審議会による20日の答申を受け、広島市内の六つの被爆建物が「広島原爆遺跡」として国の史跡に指定される見通しになった。老いゆく被爆者に代わり、「あの日」の惨禍を伝える建物の役割は増している。地元の関係者たちは、文化財として保存、継承される「無言の証人」の発信に力を入れていく。(川上裕)

 「核兵器の被害、戦争の非情さを如実に伝える」。審議会は、こう評した。市は被爆建物のうち、原爆で建物がほぼ全壊・全焼した爆心地から2キロ圏内にあり、公開するなどして被爆の実態を発信している6件に絞り込み、7月に文化庁へ史跡指定を申請していた。

 とりわけ本川小(中区)と袋町小(同)の両平和資料館は、1発の原爆で未来を絶たれた児童たちの死を資料や写真で伝え続けている。2025年11月からは原爆資料館(同)の付属展示施設になる予定だ。

 「学校や地域で守ってきた。もっと知ってもらうきっかけになればいい」。母校の本川小の資料館で20年余りボランティアガイドを担う岩田美穂さん(65)は喜ぶ。

 館内には炭化した木れんがや焼け焦げた配電盤が残る。岩田さんは、母の綿岡智津子さん(11年に82歳で死去)が両親と3人の妹を原爆に奪われた体験も語り継いできた。外国人観光客の来館が増えており「さらに受け入れ環境を整える必要がある」と受け止める。

 史跡に指定されれば、国から修繕時などに最大2分の1の補助がある。木造の被爆建物では爆心地から最も近い多聞院(南区)の鐘楼は完成から90年近くになり、はりなどに傷みが目立つという。亀尾泰弘副住職(40)は「台風や地震で倒壊しないか心配。保存方法を考える時期だ」と話し、史跡指定を機に本格的な修繕につなげる構えだ。

 市は指定後、所有分だけでなく6件全ての管理団体になる。市文化振興課は「被爆建物を保存してきた市の取り組みが認められ意義深い。国の支援を受けながら確実に継承したい」と誓う。

(2023年10月21日朝刊掲載)

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