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社説・コラム

社説 [地域の視点から] 「広島原爆遺跡」国史跡に

さらなる活用策 考えよう

 文化財としての価値に「お墨付き」を得たといえよう。

 広島市内にあるレストハウスや旧日本銀行広島支店など、6件の被爆建物である。「広島原爆遺跡」として国史跡に指定するよう、文化審議会が国に答申した。

 「物言わぬ証人」として保存や活用に弾みがつくことになる。大変喜ばしい。

 官報告示を経て国史跡になれば、修繕時などに最大半額の補助が受けられる。6件全てを管理することになる市の責任は重い。まずは保存に万全を期す必要がある。

 原爆の惨禍を伝える建物が国史跡になるのは、世界遺産の原爆ドーム、「長崎原爆遺跡」と名付けられた長崎市内の5件に続き、三つ目。

 広島原爆遺跡の6件は全て爆心地から2キロ圏内にある。保存状態が良く、平和学習などに活用されているなど、被爆建物の中でも、原爆ドームに次いで価値がある。

 人類史上初めて使用された核兵器の被害、戦争の非情さを如実に伝える―。今回そう評価されたのも当然である。

 例えばレストハウスは原爆で地下室にいた1人を除き、全員亡くなった。旧日銀広島支店は壁にガラス片の跡が残る。本川小と袋町小はともに焼失した校舎の一部を平和資料館として使っている。

 安全確保などの対策が求められるものもある。中国軍管区司令部跡(旧防空作戦室)だ。原爆による「広島壊滅」の第一報を伝えたとされる場所だが、半地下の建物は老朽化で公開が中止されたまま。

 木造の被爆建物では最も爆心地に近い多聞院の鐘楼は補修が必要だろう。完成から90年近くたち、傷みが目立つ。

 原爆投下から80年の節目が再来年に迫る。被爆建物をはじめ「物言わぬ証人」は存在感を増している。あの日の惨状を語れる被爆者は減っており、証言を直接聞けなくなる日もそう遠くないからだ。市民も含めた、被爆建物のさらなる活用策検討が急がれる。

 乗り越えるべきハードルは多い。広島県と国が所有する広島市内最大級の被爆建物、旧陸軍被服支廠(ししょう)の保存・活用も、その一つ。軍都広島の歴史を伝えると同時に、国内最古級の鉄筋コンクリート建築物としての価値も高い。国の重要文化財に4棟そろって指定されるよう、被爆地を挙げて準備を加速させたい。

 個々の被爆建物の特徴を磨きつつ、原爆資料館や国立広島原爆死没者追悼平和祈念館を含めた平和関連施設のネットワーク化も進めるべきだ。国内外から広島を訪れた人たちが、被爆の惨禍と核兵器廃絶の訴えを立体的に理解できるよう、役割分担にも知恵を絞らなければならない。

(2023年10月27日朝刊掲載)

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