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連載・特集

緑地帯 朽木祥 記憶を伝える旅①

 この春、思いがけずアラブ首長国連邦シャルジャから児童書フェスティバルへの招待状が届いた。「光のうつしえ」英語版SOUL LANTERNSの版元経由だった。ヒロシマを伝えるこの物語は米国でベストブックス2021に選ばれ、世界中で販売されている。

 既にこのとき、7月にはドイツのミュンヘン国際青年図書館に行くことが決まっていた。招待されたのは3年前だったが、コロナ禍で延期。ようやく「本年、フルで開催の運びとなりました!」との知らせが届いたばかりだった。

 いずれも日本からの招聘(しょうへい)は初めてとのこと。遠い国の若い人たちにヒロシマを伝えるまたとないチャンスである。

 日本でも、拙作「たずねびと」が小学校の国語教科書に採択されて以来、子どもたちからたくさんの感想が届くようになった。海外の子どもたちにもヒロシマを伝えたい。思いきってアラブ首長国連邦へも出かけていくことにした。

 結果的に「ヒロシマを世界に伝える」試みには大きな手応えがあった。ありがたいことに、帰国後の報告にも多くの方が関心を寄せてくださり、講談社ホームページに掲載された記事には10万を超えるアクセスがあったという。

 ここでは、二つの国で印象に残ったできごとや「記憶」の継承にまつわるエピソードをお話ししたい。(くつき・しょう 作家=神奈川県鎌倉市)

(2023年10月27日朝刊掲載)

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