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連載・特集

緑地帯 朽木祥 記憶を伝える旅②

 シャルジャは、ドバイ、アブダビに続くアラブ首長国連邦第3の首長国である。児童書フェスティバルは、アラビア湾に面した首都で毎春、盛大に開催されている。

 広いフェスティバル会場には意匠を凝らしたカラフルなブースが設営され、絵本原画などの関連展示もあれば、参加型の図画工作ブースや料理本の実演ブースまである。

 各国から招かれた作家たちのトークやセッション、朗読会なども開催され、参加しきれないほどのプログラム満載だ。連日大にぎわいで、顔を輝かせた多くの子どもたちに出会った。

 児童書はもちろん、コミックもたくさん置いてある。日本のマンガは大人気だ。「マンガ」という語はアラビアでも定着しているとのこと。

 そういえば、講演先の学校でいきなり「おまえ、よく来たな」と声をかけられて驚いたことがある。振り向いたら、愛らしい女生徒ではないか。

 「日本語は、どこで勉強したの?」と訊(たず)ねてみると、「マンガとアニメ」というお答え。

 なるほど。(アラビア語通訳のカマール・ザザ氏によれば「まあ、最初は、ぼくもそうでしたけど」とのこと)。

 「次からは、よくいらっしゃいました、と挨拶(あいさつ)したら、もっと気持ちが伝わるでしょう」と言ったら、女生徒はにっこり、うなずいた。

 日本のマンガ文化隆盛は喜ばしい限りだが、寛容に理解すべきおまけもあるようだ。 (作家=神奈川県鎌倉市)

(2023年10月28日朝刊掲載)

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