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社説・コラム

社説 CTBT批准 ロシア撤回 核軍縮の後退 食い止めよ

 核軍縮の流れがまたも大きく後退することになるとすれば、断じて許されない。

 元凶は今回も、ロシアのプーチン大統領である。核爆発を伴う全ての核実験を禁止する包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准撤回を進めている。上下両院とも、全会一致で撤回法案を可決した。

 核実験の再開が狙いのようだ。2月の年次報告で、核実験を実施できる準備を整えるよう指示する考えを示していた。そのためCTBTから抜け出ようと考えたのだろう。

 近年、ロシアは許し難い振る舞いを続けている。ウクライナ侵攻と、核兵器使用をちらつかせての脅しである。

 世界を危険にしていることが分からないのだろうか。米国の科学誌が毎年発表している「終末時計」の残り時間は今年1月、90秒に縮まり、1947年の創設以来、最も短くなった。真っ先に責めを負うべきはロシアである。

 2月には、米国との間で唯一残る核軍縮合意の新戦略兵器削減条約(新START)の履行停止を発表した。そしてあろうことか、今回の核実験再開への地ならしである。

 CTBTは、対立から協調へという冷戦後の国際潮流の変化のたまものと言えよう。63年調印の部分的核実験禁止条約では対象外だった地下核実験も含めた核実験禁止を目指し、94年から本格交渉が始まった。当時のクリントン米政権は前向きで、96年に国連総会で採択された。ロシアは2000年に批准した。

 「核兵器のない世界」に向け大きな前進になると、日本政府は当初から早期発効に努めていた。岸田文雄首相も積極的で、先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)での核軍縮に関する広島ビジョンにも、早期発効を掲げている。

 ただCTBT自体には「抜け穴」がある。禁止しているのは核爆発を伴う全ての核実験だけ。米国が時折行う臨界前核実験は爆発を伴わないため、おとがめなしだからだ。

 発効へのハードルも、極めて高い。核兵器を持つ国と開発能力のある44カ国の批准が必要だが、保有国のうち、米国や中国、イスラエルの3カ国は署名だけで批准していない。北朝鮮、インド、パキスタンの3カ国は署名すらしていない。横暴な核保有国はロシアだけではないのが現状だ。

 米国の先行きにも不安が拭えない。批准できないのは共和党が強く反対しているからで、その共和党が再び大統領のポストを得れば、批准が一層遠のく恐れがある。

 とはいえ、核軍縮の後退は食い止めなければならない。ロシアのCTBT批准撤回を放置すれば、核軍拡競争の再燃を招き、人類の自滅にもつながりかねない。核戦争に勝者がいないことは手前勝手な保有国のリーダーも分かっているはず。核軍縮に真剣に向き合うよう、国際世論を強めることが必要だ。

 CTBTを批准した国は170に上る。核実験禁止を求める声は世界の多数派だ。そうした声を束ねて核軍縮を進めるよう保有国を動かしていく。被爆国日本こそ、その先頭に立たなければならない。

(2023年10月31日朝刊掲載)

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