莞蕾の嘆願 和訳本出版 「赦し難きを赦す奇跡を待ち望む」…対話334通
23年10月31日
比大統領の戦犯恩赦から70年 「世界平和の教訓に」
平和活動に尽力した安来市出身の画家加納莞蕾(かんらい)(本名辰夫、1904~77年)が、日本人戦犯の恩赦をフィリピンの故キリノ大統領たちに嘆願した英文書簡の翻訳をまとめた書籍「加納辰夫嘆願書」が出版された。莞蕾が出した手紙の控えと返信合わせて334通を収録。今年はキリノ大統領が53年に105人の日本人戦犯の恩赦を実施してから70年の節目となっている。(高橋良輔)
収録した書簡は、莞蕾が1949年6月から59年12月にかけて、キリノ大統領やローマ法王(教皇)たちに出した嘆願書。「赦(ゆる)し難きを赦す奇跡を待ち望む」などと記されている。長期間、国際的に運動し、多くの返信を受けていたことが分かる資料となっている。
翻訳を担当したのは、生前の莞蕾と親交があった元高校英語教諭の三島房夫さん(83)=安来市。「莞蕾先生との約束が実現できた。世界平和実現への教訓になるのではないか」と喜んでいる。
解説は、フィリピンでの戦犯裁判に詳しい広島市立大広島平和研究所の永井均教授が担当。嘆願がキリノ大統領の決断に直接作用したことを示す証拠は見いだせないとしつつも「戦争で傷ついた他者の存在を意識した対話の試みから学ぶことがある」としている。
同美術館の指定管理者である加納美術振興財団が発刊した。莞蕾の四女の加納佳世子名誉館長(78)は「父の強い思いを引き継ぎ、平和の大切さを伝えていきたい」と話している。
A5判616ページ。7700円。300冊刷り、同美術館で販売する。11月3日には出版を記念し、加納名誉館長が同美術館で講演する。同美術館☎0854(36)0880。
(2023年10月31日朝刊掲載)