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社説・コラム

社説 ガザ情勢と日本 停戦実現へあらゆる努力を

 イスラエルがパレスチナ自治区ガザへの攻勢を強め、ガザ側の死者だけで1万人に迫る。これ以上、民間人の被害が拡大しないよう停戦を実現し、ガザを実効支配するイスラム組織ハマスが奇襲の際に拘束した全ての人質を解放させなければならない。

 地理的に遠い日本だが、関係が薄いわけではない。米国の同盟国であるイスラエルとは友好関係にある。パレスチナを支援するアラブ諸国には原油資源の多くを頼り、経済的な結び付きは強い。

 こうした背景から、イスラエルとパレスチナが共存する「2国家解決」を支持してきた。日本はことしの先進7カ国(G7)の議長国でもある。戦禍を食い止めるための外交努力を尽くすべきだ。

 上川陽子外相が3日から、イスラエルとヨルダン川西岸のパレスチナ自治区、隣国ヨルダンを訪問した。7、8日には東京でG7外相会合が開かれる。議長国として議論を主導するために現地の状況を把握することは重要だ。

 上川氏はイスラエルのコーヘン外相との会談で、ハマスの奇襲を「テロ」と非難した上で一時的な戦闘中断と国際法に従った行動を呼びかけた。

 パレスチナ自治政府のマルキ外相との会談では総額6500万ドル(約97億円)の追加人道支援を行う考えを表明。「2国家解決」を支持する立場は不変だと伝えた。

 イスラエルとパレスチナの双方に配慮した対応といえるが、厳しい現実も見えた。

 同じ時期、ブリンケン米国務長官もイスラエルを訪問。ネタニヤフ首相に一時的な戦闘中断を要請したが、人質の解放がなければ応じられないと拒否された。一方、自治政府はガザの統治能力を失っているとされる。日本の追加支援が事態の改善につながるかは見通せない。

 日本は中東和平に向け、パレスチナの国家樹立に向けた経済的自立を重視してきた。ヨルダン渓谷の開発を柱とした「平和と繁栄の回廊」構想もその一環である。中東地域を植民地にしたことがない国として、一定の信頼関係を築いてきたのは確かだ。

 その立場を生かして日本が徹するべきは、いかにガザの人道危機を回避するかに尽きよう。岸田文雄首相は臨時国会の所信表明演説で、「『人間の尊厳』という最も根源的な価値」を外交の中心に据えると述べた。

 イスラエルの侵攻拡大が自衛権の範囲を逸脱しているのは明らかだ。それゆえに国連総会で121カ国が賛成し可決された、イスラエルとハマスに「人道的休戦」を求める決議を棄権した日本政府の判断には疑問が残る。

 戦闘が10月7日に始まって間もなく1カ月。停戦の鍵はやはり、イスラエルの後ろ盾である米国が握る。日本は国際社会と連携してイスラエルに自制を求めるとともに、米国の背中を粘り強く押し続けなければならない。G7外相会合では危機回避へ明確なメッセージを打ち出す必要がある。外交の基軸に立ち返り、市民の命を救う役割を果たしてもらいたい。

(2023年11月6日朝刊掲載)

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