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社説・コラム

天風録 『「最後の新曲」』

 今年を代表する言葉は「人工知能(AI)」。英語辞典を出す米国の出版大手が選んだ。急速に発展する「AI」はよく話題に上り、使われる言葉だからと。確かに開発と活用が進む注目の技術だ▲だが何を生み出し、社会をどう変えるのか。生物兵器開発や偽情報による混乱など悪用されるリスクもある。各国が協調して防ごうと「AI安全サミット」が英国で開かれた。安全性を官民で検証することを合意した▲使い方で人を幸せにもする。ビートルズの新曲「ナウ・アンド・ゼン」がいい例だろう。43年前に亡くなったジョン・レノンさんが残したテープからAIが歌声を分離。ポール・マッカートニーさん、リンゴ・スターさんが演奏を付けた▲故ジョージ・ハリスンさんが生前に録音していたギターも合わせた。4人の「最後の新曲」に違いない。おととい発表されるとジョンの切ない歌を聴いて涙するファンの姿が世界中で見られた。レコードも売れている▲AIが雑音の多いテープから取り出したきれいな歌声。時々ぼくは君がそこにいてほしいと思う―。語りかけるような歌詞は聴く人に大事な人を思わせる。ジョンが願った愛と平和の世界へ導くようだ。

(2023年11月4日朝刊掲載)

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