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中国残留邦人 孤立を不安視 広島市、国の補助減で教室休止 自主財源で維持の市も

 広島市による中国残留邦人たちの生活支援事業の一部が今月から休止した。国の本年度の補助金が大幅に減額されたためだが、中国地方では自主財源を充てて事業を維持する自治体が目立つ。広島市の姿勢に対し、当事者からは「孤立が深まる」などの声が上がっている。(小畑浩)

 市中央公民館(中区)では、市の委託を受ける「市中国帰国者の会」が日本語や手芸、太極拳など13の教室を日替わりで開いてきた。会場代などの運営費が底を突き、来年3月まで休止する。回数を減らして継続する案もあったが、調整が難しかったという。

 教室は15年前に始まり、70、80代の残留邦人や配偶者、2世たちが中国語で気兼ねなく交流する場になってきた。常連の志村継甫(つぐのり)さん(81)=中区=は「ここに来ると元気になれた。家にいるしかなくなる」と顔を曇らせる。妻が2世で会の事務局を担う劉計林さん(67)=同=は「言葉の壁で近所付き合いがない人も多い。孤立しないか心配」と危惧する。

 残留邦人たちへの支援は国が2008年度に始めた全額補助事業だ。本年度分の補助額は7月に各自治体に示された。

 広島市は中国地方で最多の残留邦人と配偶者計104人を把握し、事業費で交流教室の委託料や参加者の交通費、医療通訳費を賄う。本年度当初予算でほぼ例年並みの1343万円を組んでいたが、補助額は47%少ない708万円だった。

 市保険年金課は「これまでは申請通りにほぼ認められてきたのに」と戸惑う。ただ、他市と比べ教室の開催回数は「多い」とし、自主財源による穴埋めはしないという。

 東広島市は年約90回の日本語教室の委託料などとして233万円の補助を国に申請したが、実際の補助額は98万円にとどまった。岡山市は207万円の申請に対し86万円、福山市は45万円の申請に対し25万円だった。ただ、3市とも不足分は自主財源を充て、事業を予定通り維持する。

 厚生労働省中国残留邦人等支援室は「予算折衝の過程で結果的に減った」と説明するだけで、減額幅や詳しい理由を明らかにしていない。24年度の予算要求額は本年度の実績をやや上回る程度で、大幅減の状況は続く見通しという。

中国残留邦人
 第2次世界大戦末期の混乱で旧満州(中国東北部)などに取り残された日本人。家族との生き別れや死別による残留孤児、現地で結婚した残留婦人がいる。1972年の日中国交正常化以降、国の支援による永住帰国者は6724人、家族を含めると計2万911人に上る。広島市が把握する市内の残留邦人と配偶者は104人(5月時点)で平均年齢は80・4歳。広島県内では約140人。

(2023年11月3日朝刊掲載)

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