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連載・特集

緑地帯 朽木祥 記憶を伝える旅⑧

 負の記憶を伝えることは、未来に二度と同じ過ちを繰り返さぬよう警戒すること、平和な未来を目ざすことだ。

 この夏訪れたドイツでは、徹底した平和教育に取り組んでいる。第2次世界大戦への深い反省からだ。生徒たちは、無惨(むざん)な史実やホロコーストの負の記憶をもきちんと学習するという。いずれの講演先でも打てば響く感があったのは、その教育の成果だろう。

 例えば、ランズフートにある学校の生徒たちは事前学習の成果をプレゼンしてくれた。「ヒロシマについては、ほとんど知らなかった」という生徒たちが、原爆投下した兵士の心情にまで踏みこんで発表したのである。大変驚かされもし感心もした。

 また、会場となった美しい教会の最前列には熱心に講演に聞き入る少女がいた。マイさんというこの国際児は、日本学校の教科書でヒロシマの物語「たずねびと」を読んだという。「私たちは核兵器や戦争のない未来を目指していかなければと考えました」と話してくれた。ドイツの少年少女たちの真摯(しんし)さに胸を打たれることばかりだった。

 日本でも、「たずねびと」を学習した生徒たちから毎年多くの感想が届く。原爆資料館に「行ってみたい」「行ってきました」と書いてくる子どもたちもいる。

 この少年少女、この子どもたちこそ、平和な未来を迎えるための「希望」そのものなのだ。諦めずに「記憶」を語り伝えていかなければ。(作家=神奈川県鎌倉市) =おわり

(2023年11月7日朝刊掲載)

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