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社説・コラム

社説 武器輸出 与党協議再開 「三原則」空洞化許されぬ

 戦後積み上げてきた平和主義からの方向転換を、国民の目が十分に届かない所で決めてしまうつもりだろうか。

 武器を含む防衛装備品の輸出ルール見直しを巡る連立与党の実務者協議である。内閣改造で中断していたが、おととい自民、公明両党が2カ月ぶりに再開した。年内にも意見を集約し、防衛装備移転三原則や運用指針の改定を政府に求める考えだという。

 東・南シナ海で海洋進出を強める中国を念頭に、同盟国と協力して地域を安定させる狙いが政府にはあるようだ。ただ、思惑通りに進めば、殺傷能力のある武器の輸出解禁に道を開き、三原則を空洞化させかねない。平和国家の理念は今や瀬戸際にある。

 防衛装備品に関する政策は安倍晋三政権下で大きく動いた。1967年に打ち出された武器輸出三原則を「防衛装備移転三原則」と言い換え、輸出禁止政策を転換した。

 第2次世界大戦を引き起こし、国内外で多くの犠牲者を出して敗れた反省に基づき、日本は戦後、平和国家を掲げてきた。二度と自ら争いを起こさず戦争に関与しない―。そんな決意が武器輸出を禁じた背景にはあったはずだ。

 禁輸政策を転換した安倍政権だが、「限定付き」にとどまった。防衛装備品の輸出・提供先は安全保障上の協力国だけ。対象も救難、輸送、警戒、監視、掃海の非戦闘5分野に限り、殺傷能力のある武器の輸出は認めなかった。

 このため、一層の解禁を目指す自民党内の動きは止まっていない。昨年末には、岸田文雄政権が安保関連3文書の改定で、現行の三原則見直し検討を打ち出す。それを受け、連立与党による実務者協議が今年春から始まった。

 協議の焦点のうち、最も危ういのは、5分野に当てはまれば殺傷能力のある武器を搭載していても輸出を認めること。敵基地攻撃能力(反撃能力)保有に続く安全保障政策の歴史的転換となる。武器が使われれば、地域の安定どころか、国際紛争を激化させかねず、間接的加担にもなる。

 「抜け穴」をつくることにならないか、疑問の拭えぬ焦点もある。完成すれば殺傷能力を持つ武器でも、部品ならば全て輸出を認めることだ。

 他の国と一緒に開発する装備品の扱いについても実務者で協議する。政府は、英国、イタリアと共同開発する次期戦闘機の第三国への輸出を認めさせたいようだ。

 前のめりな政府や一部の議員に引きずられ、大事なことを忘れてもらっては困る。

 戦火のやまない国際社会で日本も何らかの国際貢献を果たす必要がある。とはいえ、戦火を交えている国への武器提供より、戦火を即座に消すことにこそ、注力すべきである。戦火がやめば、復興という強みも発揮できるはずだ。

 武器輸出の解禁は、平和国家の理念を捨て去ることになる。専守防衛を軸とする憲法と矛盾しないのか。テーマは重く、与党だけでなし崩し的に進めていいはずはない。開会中の国会をはじめ、国民に開かれた場で、徹底的に議論しなければならない。

(2023年11月10日朝刊掲載)

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