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社説・コラム

天風録 『「核の冬」警鐘40年』

 子ども心にワクワクしたことを覚えている。1970年代、「宇宙人への手紙」を載せた惑星探査機を米国が繰り返し打ち上げた。いつの日か誰かが読み、未知との遭遇がかなうと信じて▲手紙は2種類で、初期は金属板だった。人間の男女の姿や太陽系を示す図柄を記した。続いて探査機に載せたのはレコード盤。クラシック音楽や赤ちゃんの泣き声などを収める。ロマンをかき立てる試みは米天文学者のカール・セーガン氏が進めた▲岩波ジュニア新書「20世紀理科年表」で83年のページに博士の名が見える。全面的な核戦争が起きたら地球は灰に覆われて酷寒に陥り、人類は破滅すると予言した。いわゆる「核の冬」である▲その予言から40年。警鐘を思い返すべき節目なのに、世界は博士が危惧した方向に進んでいないか。イスラエルの閣僚がパレスチナ自治区ガザへの核兵器使用を「選択肢の一つ」と発言。ウクライナに侵攻したロシアも核による愚かな威嚇を続ける▲振り返れば5月、G7広島サミットでも核抑止力を肯定する声明を出してしまった。手紙を受け取った宇宙人がはるばる会いに来てくれた時、「核の冬」ではなく、美しい地球で出迎えたい。

(2023年11月10日朝刊掲載)

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