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連載・特集

『生きて』 作曲家 糀場富美子さん(1952年~) <12> ダブル受賞 20年ぶりに原爆テーマ

  ≪2005年、20年ぶりに原爆と向き合った「未風化の7つの横顔 ピアノとオーケストラのために」を発表。別宮賞と芥川作曲賞を受賞した≫

 「広島レクイエム」の後、重いテーマであるが故に、すぐに次作を書く気持ちになれなかった。05年は被爆60年でした。テレビからは「被爆体験の風化」が聞こえてきた。

 その頃、父が孫たちに8月6日の体験を語り始めた。「何を急に言い出すの」と驚きました。長年「原爆の翌日、死体処理に動員されて広島市内に入った」と言っていた。実は違った。子どもの結婚に支障があっては―と隠していた。知らなかった。書こうと決意しました。

 「未風化」という題名には、風化にあらがう意志を込めた。ピアノが語り部となり、七つの情景が展開します。ホルンが息を一気に吹き込んで熱風を表現。ハープがキコキコと時を刻み、死んでいった赤ちゃんや子どもたちの魂が天に昇る。終盤は川面で灯ろうが燃え尽きるさまに、原爆犠牲者の苦しみを投影した。始めと終わりに、祈りの鐘の音が静かに鳴り響きます。

 05年10月、秋山和慶先生の指揮で東京交響楽団に初演していただきました。素晴らしい演奏のおかげで、作曲家の別宮貞雄先生(1922~2012年)が設立された「別宮賞」と、その後「芥川作曲賞」も受賞しました。

 ≪09年7月、広島交響楽団が定期演奏会で「未風化―」を演奏した≫

 広響の音楽監督だった秋山先生が、東京での初演に続き広島で指揮してくださった。高齢の両親を弟が連れてきてくれました。実は、父には「悪かったなあ」とずっと思っていたんです。1985年に米カーネギーホールで「広島レクイエム」が演奏されたとき、父が同行を熱望したのに、私は自分のことで精いっぱいで断ってしまった。最期に「未風化―」を聴いてもらえてよかったです。

(2023年11月14日朝刊掲載)

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