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連載・特集

『生きて』 作曲家 糀場富美子さん(1952年~) <13> 3・11

合唱曲に祈りを込めて

  ≪2011年3月11日に発生した東日本大震災をテーマに、5作品を次々と発表した≫
 震災当日は埼玉県川口市のホールにいました。女声合唱団「青い鳥」が私の新作を歌う本番を前に、リハーサルに立ち会っていた。ものすごい揺れで、パニックになった。楽屋に戻り、音楽監督の栗山文昭さんが「今日はコンサートは中止だろう。ここで歌おう」と指揮を始めた。みんな落ち着きました。歌の力ってすごいと思った。

 公共交通機関が止まり、東京の自宅まで車で送ってもらうことに。途中、河川に架かった橋に、大勢の人々がぞろぞろぞろ…と歩いていた。「あ、これって昔聞いた原爆投下直後の光景に似ている」と。深夜に帰宅してテレビをつけると、津波で破壊されたまちが燃えていた。

 14年、ピアノ教師向けの講習会で被災地を回りました。海までざーっと更地が広がる景色を目の当たりにし、衝撃を受けた。原爆についてはなかなか書けないけれど、震災は自分で見聞きしたからでしょうか、「書こう」と思った。

  ≪鎮魂を込めた「わだつみ~チェロとピアノのために」は米ニューヨークで、原発事故がテーマの合唱曲「底魚たちの悲しみ」は東京で初演された≫
 合唱曲は大学院1年のとき「ことばあそびうた」(詩・谷川俊太郎)を書き、神奈川芸術祭合唱コンクールで最高位を頂きました。以来、数多くの合唱曲を書きました。元々歌が大好きで、広島大付属高では合唱班。たくさん歌ってきたことで、書けるようになったと思います。

 広島の女性でつくる「フェミニンコール広島」と「広島ジュニアコーラス」の音楽監督、谷千鶴子先生には感謝です。長年「座付き作家」のように関わらせていただいた。00年の「国民文化祭ひろしま」で合唱組曲の委嘱、昨年はエリザベト音楽大から宗教合唱曲の委嘱等々、広島に育ててもらいました。

(2023年11月15日朝刊掲載)

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