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連載・特集

『生きて』 作曲家 糀場富美子さん(1952年~) <14> 被爆70年 秋山広響が新作を演奏

  ≪被爆70年の2015年、広島交響楽団の委嘱作「摂氏4000度からの未来」が秋山和慶・音楽監督(当時)のタクトで初演された≫

 秋山先生は大恩人です。長年、音楽監督を務められた東京交響楽団で、私の曲を何度も演奏していただいた。代表作の一つとなった「未風化の7つの横顔」(05年)が高評価を得たのも、初演の指揮を担ってくださったおかげです。

 「摂氏―」の委嘱では、秋山先生から「君はずっと鎮魂をテーマに書いてきた。未来への希望のメッセージを書いてほしい」とリクエストがありました。難しかったですね。両親が亡くなって、帰省の機会も減った。広島の今を知らないのに、未来をどうイメージすればいいか…。14年初頭から構想を練り始め、20分足らずの曲を完成させるまでに1年かかりました。

 爆心地の地表は3千~4千度になったとされています。曲は前半、熱風に焼かれた被爆者の苦しみ、怒りを激しい音色で表します。それらは、オーケストラの各所で鳴らされる風鈴によって浄化され、やがて復興した街に新しい風が吹き、曲は弦楽器の上昇する音で終わります。

  ≪広島市の被爆70年記念事業の一環で、演奏をCDに収録。8月6日の平和記念式典に参列した各国の代表らに贈られた≫

 広響にはかつて、「広島レクイエム」をウィーンの国連で演奏していただきました。1991年のことで、私も同行しました。聴衆の熱心な拍手が印象に残っています。

 今夏、広響が「未風化―」を演奏した際、「こんなに聴きやすい現代音楽は初めて」という感想を人づてに聞きました。確かに、現代音楽は「とっつきにくい」イメージがある。私は自分が聴いて美しいと思う、納得する音を書いてきた。コンピューター音楽が全盛でそれを取り入れることも重要ですが、生の演奏にはその時、その空間でしか得られない感動があります。

(2023年11月16日朝刊掲載)

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