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聖書の言葉 道しるべに ノートルダム清心中・高の神垣校長 初の著作 力抜き 試練と向き合って

 ノートルダム清心中・高(広島市西区)の神垣しおり校長(64)が、約40年にわたる教員生活で心の支えとしてきた言葉の数々を紹介する、初の著作を刊行した。キリスト教の教えを中心に、困難な状況を切り開くヒントが詰まった一冊。その中から特に伝えたい二つのフレーズを挙げてもらった。(山田祐)

  ≪力は弱さの中でこそ十分に発揮される。≫

 新約聖書にあるイエス・キリストの言葉です。「自分に与えられたとげを抜いてほしい」と願った弟子パウロへの返答の一節です。パウロを立ち直らせたこのフレーズを、心が弱った時に思い起こします。

 校長に就いた2018年、西日本豪雨がありました。交通網が乱れ、大勢の生徒が通学できなくなりました。翌年は大学入試が迫った時期にインフルエンザがまん延し、休校の判断を迫られました。20年からは新型コロナウイルス禍。校長になってから予定通りに物事が進んだことはないと思えるほどです。

 「強いリーダーシップのない私に乗り越えられるだろうか」と悩んでばかりでした。でも振り返ってみれば苦しい状況だからこそ、支えてくれる人たちへの感謝の心が生まれ、教職員のチームワークが発揮されたのだと思います。

 高校3年生の宗教の授業を受け持っています。生徒は卒業が近づくにつれ、大学受験の合否が価値観の大半を占めるようになっていきます。進学に限らず、誰しも勝ち負けや強さ弱さといった尺度に重きを置いてしまうものです。前に進むだけがすべてではありません。ちょっと立ち止まり、時には後ろに一歩下がってみれば良いのです。

 本のタイトル「逃げられる人になりなさい」は、聖書にある「(神は)試練に耐えられるよう逃れる道を備えてくださっている」から引用しました。地に足を着け、肩の力を抜いて試練と向き合ってほしい。これから世の中に出ていこうとする生徒たちに知っておいてほしい考え方です。

 ≪受け入れることで道はひらかれる。≫

 人生で最も影響を受けた存在が聖母マリアでした。そのストーリーは強烈です。突然天使から「あなたはキリストの母になる」と告げられて子どもを授かる。しかしその子は後に十字架に張り付けにされ、目の前で亡くなります。その生涯で最も心打たれた場面から学んだ私なりの教訓が冒頭の言葉です。

 聖母マリアは「受胎告知」を受け入れると決意した時、「Let it be―(お言葉の通りになりますように)」と答えます。英ロックバンド・ビートルズの楽曲でおなじみのフレーズです。

 告知を受けた聖母マリアは、初めは「どうしてそんなことがあり得ましょうか」と拒みます。戸惑うのも無理はないですよね。揺れながら、最終的に覚悟を決めて運命を受け入れます。

 つまり「最初から全部受け入れなさい」という教えではないんです。迷い悩むことを否定する言葉でもない。だからこの場面が好きなんです。

 大学を卒業後、私は1度就職を諦め、がんを患っていた母親の介護をすることにしました。教員を目指していたので葛藤もありましたが、「これも一つの生き方だ」と受け入れたんです。

 1年ほど看病し、母をみとった後、声がかかって清心の教壇に立つことになりました。充実した日々を送ることができたのは、看病で寄り添った経験が支えになってくれたのだと今は思います。難しい状況も受け入れて進んだことで道は開かれたんです。

 神垣校長の著作「逃げられる人になりなさい」は四六判231ページ。聖書の言葉をはじめ、自身の経験を基にした思考法など計48のメッセージをつづった。飛鳥新社。1540円。

教皇広島訪問4年で集い

 ローマ教皇フランシスコの広島訪問から4年となる24日、カトリック関係者たちが平和記念公園(広島市中区)で核兵器廃絶を祈る集いを開く。一般の参列を呼びかけている。

 午後6時に原爆慰霊碑前で黙とうした後、原爆ドーム対岸の親水テラスに移動。教皇が来訪時に使った燭台(しょくだい)を原爆資料館から借り受け、ろうそくに火をともす。カトリック広島司教区の白浜満司教たちが祈りをささげて締めくくる。

 有志でつくる実行委員会の主催で、広島と長崎のカトリック関係者たちでつくる「核なき世界基金」が共催する。

(2023年11月20日朝刊掲載)

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