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社説・コラム

社説 日中首脳会談 懸案解決へ重層的対話を

 岸田文雄首相はきのう、滞在先の米国サンフランシスコで中国の習近平国家主席と会談した。共通の利益を目指す「戦略的互恵関係」を包括的に進める方針を再確認した。

 日中間には、事故を起こした東京電力福島第1原発の処理水の海洋放出を巡る輸出規制をはじめ、懸案が山積している。それだけに、首脳同士が話し合いを続ける重要さは計り知れない。

 その点は両首脳も分かっているのだろう。今後も緊密な意思疎通を図ることで一致した。当然とはいえ、評価したい。言葉だけで終わらせず、実行に移して具体的成果を模索しなければならない。

 昨年11月以来の首脳会談は予定をオーバーし、1時間余りに及んだ。実質30分程度にとどまった前回より長くなったのは、互いに対話を重視している証しだろう。

 習氏は、昨年秋の共産党大会で「1強」体制の基盤を固めたはずだった。ところが、「イエスマン」ばかりの重要閣僚のうち、外相と国防相が相次いで解任された。ともに就任から1年足らずで、異常事態といえよう。

 経済面でも不安を抱えている。不動産市況が低迷し、消費の伸びも力強さを欠く。新型コロナウイルス禍で傷ついた経済の立て直しが進まなければ、国内外でくすぶる長期支配への批判が噴出しかねない―。そんな危機感を強めているのではないか。

 習氏に対し、岸田氏は、処理水問題を巡る日本産水産物の輸入規制の即時撤廃に加え、相次いで拘束されている日本人について、早期解放を求めた。沖縄県の尖閣諸島をはじめ日本周辺での軍事活動活発化については、深刻な懸念を表明した。

 習氏は処理水を「汚染水」と呼び、「国内外の合理的懸念に日本は真剣に対応すべきだ」と述べるなど、譲歩しなかった。主張の隔たりが大きく、1回の首脳会談で事態を打開するには難しい懸案ばかりだ。

 意見が大きく食い違うからこそ、対話を続けなければならない。日中に先立って行われた米国と中国の首脳会談が改めて教えてくれている。台湾を巡る問題などで激しい応酬があったが、軍事面での対話再開で合意した。話し合いを重ねてこそ、破滅的な衝突を避ける糸口を見つけられるのではないか。

 台湾問題では、日本も米国をはじめ関係各国と連携して粘り強く中国に自制を求めていくべきである。そのためにも、話し合いの扉を広く開けておかなければならない。

 そもそも、日本にとって中国は歴史的につながりの深い隣国だ。今は最大の貿易相手国であり、日系企業の海外拠点数でもトップを占めている。切っても切れない経済的な関係にあると言える。

 互いにアジアの大国として地域の平和と安定に貢献する責任もある。対立の拡大を防ぎ、協調を目指す上でも、首脳同士にとどまらず、さまざまなレベルで対話を重ねることが必要だ。言うべきことを言い合える建設的で安定した関係の構築が求められる。

(2023年11月18日朝刊掲載)

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