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連載・特集

響け、あしたへ エリザベト音楽大75周年 <中> 卒業生6800人 広く活躍

生涯学習の場にも開放

 エリザベト音楽大は1990年に大学院、93年に私立の音楽大として初めて博士後期課程を設けた。これまでの卒業生は約6800人を数える。中四国・九州地方を代表する音楽大として人材を育て、輩出してきた。

 「多彩な楽器の音色が響くキャンパスで学ぶうち、指揮に引かれていった」。卒業生で、現在は郷里の福岡県で指揮者として活躍する井上智子さん(46)=太宰府市=は振り返る。入学時の教員志望から転向し、2004年、大学院修士課程音楽学専攻(指揮)を修了した。

 福岡在住の専門指揮者は少ない中で、市民オーケストラなど多くのステージに登壇。合唱指導の評判が広まり、創立70年になる「混声合唱団 福岡合唱協会」の常任指揮者、大阪の師走恒例「1万人の第九」の福岡クラス指導者も務める。「大学でグレゴリオ聖歌を学んだことが、指導を支えてくれている」と話す。

 「天井からキラキラ降ってくる音色に、心をつかまれた」。米山麻美さん(62)=出雲市=は、転科を経てパイプオルガンコースを1986年に卒業。中四国唯一のパイプオルガンを備えた公共ホール「プラバホール」(松江市)の専属オルガニストに就いた。

 以来、住民サポーターと趣向を凝らした演奏会を重ねてきた。現在、ホールとパイプオルガンは改修・修理中で、来年4月にリニューアルオープンする予定だ。米山さんは「次世代に音色をつないでいきたい」と張り切る。

 広島のみならず、周辺各地の音楽文化を支えてきたエリザベト音楽大。しかし、少子化や不況という逆風は避けては通れない。

 文部科学省によると、バブル経済の崩壊後、全国の音楽大生は3割減になった。エリザベト音楽大も90年の新入生156人(定員140人)から、今春は48人(同70人)と大幅に減少した。

 「学費が高い」「就職が難しい」というイメージを払拭するため、全国に先駆けて手厚い奨学金制度を設け、就職支援を重視してきた。今春の就職希望者の就職率は95・7%。幼稚園・小中高の教諭、消防音楽隊のほか、4割は一般企業に就職した。自己表現力や対人スキルの高さが評価されているという。

 生涯学習にも力を入れる。広島、東広島の両市に開設する付属音楽園は、4歳から高校生まで約140人が楽器や合唱のレッスンを受講。広島校でピアノを学ぶ清原楓さん(7)=広島市西区=の母絢子さん(37)は「大学教員から本格的なレッスンが受けられ、大きなホールで発表会ができる。音大ならではの魅力がある」という。

 社会人向けのエクステンションセンターも開設。楽器の個人レッスンをはじめ、音楽理論を学ぶ講座や、パイプオルガンの体験会など、多彩なプログラムを用意し、幅広い世代に門戸を開放している。(西村文、桑島美帆)

ブルガリア国立放送交響楽団 ホルン奏者 常川仁さん(35)=三次市出身

基礎から学んで夢つかむ

 ブルガリア国立放送交響楽団のホルン奏者、常川仁さん(35)は三次市出身。2011年にエリザベト音楽大を卒業後、海外で研さんを積み、夢をつかんだ。

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 ホルンに出合ったのは三次高の吹奏楽部に入ってから。高2の時にホルストの「木星」を演奏し、アンサンブルの楽しさに目覚めた。進路は迷ったが、地元にエリザベト音楽大があることを知り、進学を決めた。

 入学後は手でリズムを刻むところから始め、和声や音楽史を基礎から学んだ。我流で吹いていた技術は、口の形や構え方などを一から教わった。昼休憩も先生が指導してくれ、鍛えられた。当時、東京交響楽団の首席奏者だったジョナサン・ハミル先生のレッスンは貴重な経験だ。プロの音色をじかに聞きながら、一緒に演奏もできた。

 在学中に教員免許を取得。将来を漠然と考える中、もっと音楽を続けようとスイスへ留学した。欧州は小さな街にもオーケストラがある。フランスやドイツ、北欧各地でオーディションを受け、ブルガリアの楽団でポジションを得た。

 今、首都ソフィアを拠点に毎月1、2回、ホールで演奏している。レベルが高く、経験豊富な同僚たちに囲まれて大変な面も多いが、とても充実している。

 「音楽っていいな」という気持ちが途絶えなかったのは、エリザベトの教えや和気あいあいとした校風が土台にあったからだ。地道に愚直に、自分にしか出せない音を追究したい。(聞き手は桑島美帆)

つねかわ・ひとし
 三次市生まれ。2011年、エリザベト音楽大演奏学科卒。14年スイス・チューリヒ芸術大演奏学科修士課程修了後、同大国家指導員コース修士課程で学ぶ。中退し、17年ブルガリアのルセ歌劇場管弦楽団ホルン奏者。18年から現職。

(2023年11月17日朝刊掲載)

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