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社説・コラム

社説 北朝鮮の軍事偵察衛星 緊張緩和へ圧力と対話を

 朝鮮半島情勢が一段と不透明になったことを憂う。

 北朝鮮が「軍事偵察衛星」を打ち上げ、成功したと発表した。事前の予告期間の前夜遅くであり、全国瞬時警報システム(Jアラート)が発令された沖縄県は、すわミサイルかと慌てる事態となった。

 5月と8月の打ち上げは失敗に終わった。今回も日本政府の見方は懐疑的だったが、少なくとも失敗ではなかったと考えた方がいい。韓国の国家情報院は地球周回軌道に進入した、との分析を示す。

 むろん衛星だとしても、弾道ミサイル技術を使うあらゆる発射を北朝鮮に禁じた国連安全保障理事会の決議に、明白に違反している。強く非難されるべき暴挙である。

 問題はこれからだ。対抗措置として、韓国は軍事境界線付近で敵対行為をしないとした2018年の南北軍事合意の一部効力停止を表明した。北朝鮮も合意には縛られないとして戦力配置の復活を発表した。このまま一触即発の緊張が高まるのは避けたい。

 確かに偵察衛星のシステムが本格稼働すれば安全保障上の大きな脅威となる。米韓の軍事的な包囲網や作戦を監視するとともに自国のミサイル攻撃の精度を上げるからだ。ただ冷静さを失えば挑発したい北朝鮮の思うつぼとなる。関係国で情報を共有し、十分な分析をした上で、先々を見通す対応が求められよう。

 一つは偵察衛星を巡る現状である。北朝鮮はおととしの朝鮮労働党大会で偵察情報収集能力の確保をうたい、開発を推進する。この時期に3度目の打ち上げを強行したのは北朝鮮の言い分からすれば、近く韓国が独自の軍事偵察衛星を米国から打ち上げる計画への対抗でもあるようだ。

 立ち遅れていた北朝鮮が西側並みの偵察能力をすぐ手に入れるわけでもない。早期に複数の衛星打ち上げを追加するとは明言するが、衛星画像の解像度などの問題に加え、米韓を常時監視するには相当な数が必要との見方もある。

 より気がかりなのはロシアの軍事協力の有無だろう。ウクライナの戦争への弾薬提供と見返りにロシアから技術供与を受け、前回までの失敗要因とされたエンジンの不備を克服したとも考えられる。

 こうした打ち上げのノウハウに加え、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の高度な技術の供与が続くとなれば、北朝鮮の核戦力が大幅に強化されかねない。核・ミサイル開発への制裁を進めた国連安保理常任理事国のロシアが北朝鮮の後ろ盾となる。ウクライナ侵攻の余波とも言える事態が現実となるのは許し難い。

 国際社会の構図が急変する中で、これまで通り日米韓の包囲網を強化するだけで緊張緩和につながるだろうか。しかも米バイデン政権はウクライナ、ガザの両問題を抱え、北朝鮮政策の優先度は低いと聞く。ある意味では、その隙を突かれた感もある。

 北朝鮮の動きを封じる新たな発想が必要だ。日本政府も首脳会談を終えた中国などに呼びかけて、「圧力と対話」のバランスを取りながら外交戦略を立て直すべきだ。

(2023年11月24日朝刊掲載)

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