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原爆資料館の行列 <上> 耐えたのに 館内も混雑 残る不満 「広島の損失に」

 人類史上初めて使われた核兵器の惨禍を伝える広島市中区の原爆資料館。被害の実態を知りたいと国内外から多くの人が訪れる。ただ先進7カ国首脳会議(G7サミット)を控えた今春ごろから入館待ちの行列が目立ち、なくなる気配はない。新型コロナウイルス禍などで多くの施設が入退館の効率化を図る中、なぜ原爆資料館の行列は続くのか。その背景や課題に迫った。

 今月上旬の平日午後、神奈川県大井町の迫和子さん(71)が夫と小学生の孫の3人で同館前で並んでいた。行列は約90メートル。迫さんは「土日は混むと考え、平日に来たのにびっくり」とつぶやく。小雨が降り肌寒い中、「もう諦めようか」とこぼしつつ耐えた。40分後、やっと入館できた。

 ただ、入館しても落ち着いて見られるとは限らない。実際に、館内の展示前にも人だかりや行列が生じていた。薄暗い空間に人の熱気がこもり、つらそうな表情で「暑い」とこぼす人もいた。

 同館学芸課によると、館内滞在者が600人を超すと「混んでいる」と感じる状況。昨今はそれが千人に達する時もあるという。明確な入館制限はないものの、ドミノ倒しなどの事故が起きないように制御する必要があり、それも行列が伸びる要因だ。同館には「一生に一度の機会なのに混雑して展示が見づらかった」などの苦情が連日寄せられている。

 原爆資料館の入館者数は、リニューアルを終えた2019年度に175万8746人になり、1955年度の開館以来で最多を記録した。その後、コロナ禍で落ち込んだが、本年度は4~10月で計127万985人まで伸び、19年度のペースに迫る。

 行列問題は、平和観光を議論する市のピースツーリズム推進懇談会でも取り上げられた。今月6日に公表された9月8日の会合の議事録には有識者の厳しい言葉が並ぶ。「広島に来られた貴重な時間を待つことで費やしたらもったいないし、申し訳ない」(NPO法人ANT―Hiroshimaの渡部朋子理事長)。「これだけの関心に対してこれからどうやって応えるのかということが課題」(市立大広島平和研究所の大芝亮所長)

 行列に並んだ修学旅行生が待ち時間のせいでスケジュールが押し、駆け足で館内を回らざるを得ない事態も起きているという。通訳ガイドの60代男性は「待ち時間や混雑で嫌な思いをした人はリピーターにならない。それは広島にとって大きな損失」と危機感を募らせる。(久保友美恵)

(2023年11月24日朝刊掲載)

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