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社説・コラム

社説 核禁条約会議開幕 抑止論の壁打ち破る場に

 核兵器禁止条約の第2回締約国会議が、米ニューヨークの国連本部できょう開幕する。核兵器が使われるリスクが冷戦以降、最も高まった今、核廃絶への道筋を議論する意義はより重くなった。

 昨年6月の第1回会議で採択した「ウィーン宣言」は、核抑止論を誤りだと断じた。判明した今回の政治宣言の草案は「不拡散義務と矛盾するだけでなく、核軍縮の進展を阻害している」として、改めて正当性を否定する。核抑止論に固執することで生じる負の側面を掘り下げて示し、核兵器保有国や依存国に脱却を求める考えだ。当然である。

 世界中の誰にとっても、どの国にとっても一考せざるを得ない議論になるだろう。

 ウクライナに侵攻したロシアのプーチン大統領は核による威嚇を続け、ベラルーシに戦術核兵器の配備を進める。中東では今月、イスラエルの閣僚が、パレスチナ自治区ガザに核爆弾を落とすのも「選択肢の一つ」と発言した。

 核兵器が存在すれば使おうとする国が出てくる。破滅をいとわない指導者がいれば、抑止など当てにならない。そんな現実が目の前にある。核抑止論はもろく、使われた時の悲惨さは広島、長崎の被爆者が訴える通りだ。核戦争になれば、どの国にとっても被害が及ばない保証はない。

 それゆえ、日本政府が締約国会議へのオブザーバー参加を、初回に続いて見送ったのは理解できない。日本はいずれも核兵器を保有するロシア、中国、北朝鮮に囲まれ、核の脅威は格段に高まっている。核兵器禁止条約の議論に加わり、国家間を超えた、世界や人類の安全保障との観点に立って核廃絶を目指す手法は有益なはずである。

 参加しない理由を岸田文雄首相は「条約に核兵器保有国は一国も参加していない」と今国会で答弁した。結論が逆だろう。保有国と非保有国の分断が深まる現状だからこそ参加すべきではないか。

 岸田氏は2年前の首相就任時から核兵器のない世界を目指すため、現実的な取り組みが肝心と繰り返してきた。だが頼みとする核軍縮の枠組みは、機能不全に陥っている。

 核拡散防止条約(NPT)は、昨年8月の再検討会議で最終文書を採択できずに決裂した。包括的核実験禁止条約(CTBT)は米中が批准しておらず、ロシアは先ごろ批准を撤回した。この情勢下で戦争被爆国の日本が核兵器禁止条約にオブザーバーであっても参加し、リスクへの警告を出す意味は十分にある。

 日本の安全保障にとって、米国の核抑止への依存がベストな選択なのか。従来の政府の考えを検討し直す機会にできるのではないか。

 締約国会議に被爆者や日本の非政府組織(NGO)が参加し、広島市と県、長崎市のトップも現地入りする。核兵器が使われた現実を起点にした人道性への訴えは、説得力に富む。核実験などの「ヒバクシャ」援助や環境修復の議論を深めるのは加盟国を増やすのに有効だ。何より日本政府の消極姿勢を変えさせる世論の醸成に期待したい。

(2023年11月27日朝刊掲載)

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