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社説・コラム

天風録 『埼玉とモンテネグロ』

 阪神大震災の日に始動したサッカーJ1のヴィッセル神戸が悲願の初優勝を果たした。プロ野球でも関西勢が両リーグを制しており、かの地はさぞ盛り上がっているだろう。どっこい、それには負けまいとする県もある。埼玉だ▲首都圏の一部なのに「ダさいたま」と見下されてきた。逆手に取った漫画「翔(と)んで埼玉」の映画が4年前に大ヒット。先週、第2弾が封切られた。魅力度45位の埼玉県には格好の宣伝材料だ。さてブームは再燃するか▲自虐ネタにも寛容な風土が、大志を抱く人物を育てるのかもしれない。埼玉ゆかりの首相が旧ユーゴスラビアのモンテネグロで先月、誕生した。経済学部で4年間学んだ埼玉大を、11年前に卒業したスパイッチ氏。30代半ばの若さだ▲埼玉大は、さらなる活躍を期待してウェブサイトに祝福の文章を載せている。母国愛に富み、親しみやすい人柄で知られていたそうだ。米国ウォール街やパリで働いた後、帰国して政治を志したのも国を思う故だろう▲首相として広島や長崎を訪れる機会はないものか。原爆の惨禍に加え、復興の苦労や歩みを知ってもらいたい。内戦で傷ついた国を癒やすため、役立つことが見つかるはずだ。

(2023年11月27日朝刊掲載)

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