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原爆資料館の行列 <下> ウェブ予約制 市は慎重

全国ではデジタル活用進む

 原爆資料館(広島市中区)では、入館券は必ず館内の対面窓口で買わなければならない。応対するスタッフは原則2人。小銭のやりとりや、電子マネー購入でのスマートフォンをかざす手間など、いやが応でも時間がかかる。23日、行列に並んだインドからの観光客のラバンニャ・ソーパルカルさん(24)は「せめてウェブで事前予約できたら…」と表情を曇らせた。

 延び続ける行列に対応しようと、市は5月の先進7カ国首脳会議(G7サミット)後から午後6時の閉館を1時間延ばすなどした。しかし、夏が過ぎても行列は続いた。市平和推進課は「建物のキャパシティー(収容能力)を超えている状況」と認める。

 それでも市は、館内見学の予約制には慎重な姿勢だ。新型コロナウイルスの感染対策で入館人数を制限した2020年後半や21年の春先にウェブ予約を取り入れたが、再び列に並ぶ方式に戻した。

 苦情も絶えないのになぜか。市の平和推進や経済観光の部局に取材すると、後ろ向きな声が目立つ。「大手旅行業者が多く押さえ、中小や個人が困る恐れがある」「予約と予約なしの割合を決めるのが難しい」…。最近になって改めてウェブ予約を検討する議論も出始めたが、市内部では「資料館の予約が取れなければ、そもそも広島に来てもらえないのでは」との懸念も根強いという。

 一方、コロナ禍などを経て全国の観光地や人気施設では行列を減らす工夫が広まっている。

 金沢市の金沢21世紀美術館は、行列対策として2020年度にウェブ予約を導入。現在は一部作品を対象に希望の鑑賞時間をアプリで受け付ける仕組みも取り入れている。同館は「待ち時間が減り、観光客が別の施設に行く時間も生まれた。市全体に好影響が出ている」と話す。

 もう一つの被爆地、長崎市の長崎原爆資料館は昨年、市内観光用のアプリでデジタルチケットを購入できるサービスを始めた。今年4月には別のサイトで事前購入できるようにもしている。

 佐賀県の情報統括監としてデジタル活用の推進を担った経験がある広島経済大の藤原久嗣教授(観光学)は「ウェブで事前購入できるようにすれば入館業務の効率化だけでなく、多様な来館者のデータも収集できる。観光戦略を考える上でもメリットがある」と説く。(久保友美恵、根石大輔)

(2023年11月25日朝刊掲載)

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