×

ニュース

被服支廠 国重文指定へ 曲折経て朗報 次代へ 軍都と被爆の象徴 活用策焦点

 広島市南区の旧陸軍被服支廠(ししょう)が24日、国重要文化財(重文)に指定される見通しとなった。一時は解体案も浮上するなど曲折を経ての朗報に、保存を願い続けてきた被爆者や周辺住民たちに喜びが広がった。軍都と被爆の歴史を今に伝える貴重な建造物をどう生かし、次代につなぐのか―。広島県などによる検討の行方が今後の焦点となる。(河野揚)

 「うれしい。これで壊されることはないでしょう」。近くで育った被爆者の切明千枝子さん(94)=安佐南区=は、ほっとした表情を見せた。「戦前は軍都だった広島を象徴する建物。ひどい戦争をした反省を忘れないため、何としても残してほしかった」

 戦後、民間企業の倉庫や広島大の学生寮として使われたが、1995年から活用されず老朽化が進んだ。活用案が定まらない中、県は2019年12月、所有する3棟について「2棟解体、1棟外観保存」とする案を打ち出した。周辺住民の安全確保が理由だった。

 これに反対したのが被服支廠で被爆し、今年8月に93歳で亡くなった中西巌さんだった。市民団体「旧被服支廠の保全を願う懇談会」の代表として撤回を求め、署名活動を展開。多賀俊介副代表(73)=西区=は「前途多難だった中でここまできた。重文指定を天国の中西さんに報告したい」とかみしめる。

 重文指定により国から補助金が出る見通しとなり、全4棟の保存に道筋がついた。ただ、文化庁が県に提示を求めている活用策は依然固まっていない。県は有識者懇談会が3月にまとめ、図書館や平和資料館など約30案を例示した「活用の方向性」を基に今後、国、市と協議する方針でいる。

 関係者は保存を歓迎しつつ、今後の活用策に大きな関心を寄せる。

 「決定のプロセスに市民が関われるようにしてほしい」。市民グループ「旧広島陸軍被服支廠倉庫の保存・活用キャンペーン」メンバーの瀬戸麻由さん(32)=呉市=は県に注文する。地元の住民グループ「わが町活性化委員会」の藤原美香事務局長(47)=南区=も「活用策は住民の生活にも関わる。開かれた場で地域の声も聞いて決めてほしい」と訴えた。

    ◇

 国の文化審議会が24日、重要文化財指定を盛山正仁文部科学相に答申したのは、旧陸軍被服支廠全4棟のほか、金剛峯寺本坊(和歌山県高野町)など8件の建造物。金剛峯寺は高野山真言宗の総本山で、大門などはすでに重文だが、今回は中心をなす大主殿などの「本坊」を指定する。近く答申通り告示され、建造物の重要文化財は2574件(うち国宝231件)となる。

 重要伝統的建造物群保存地区には、愛媛県宇和島市の1地区の選定を求めた。告示後の保存地区は127となる。

 旧陸軍被服支廠を除く文化審議会の答申内容は次の通り。かっこ内は所在地。

 【重要文化財の新指定】箭弓(やきゅう)稲荷神社本殿・幣殿・拝殿(埼玉県東松山市)▽宮津洗者聖若翰(よはね)天主堂(京都府宮津市)▽旧尾藤家住宅主屋など8棟(同府与謝野町)▽円教寺(えんぎょうじ)摩尼殿(兵庫県姫路市)▽金剛峯寺本坊大主殿および奥書院など12棟(和歌山県高野町)▽釣島(つるしま)灯台など1基2棟(松山市)▽豊村酒造旧醸造場施設12棟(福岡県福津市)▽吉田松花堂主屋など9棟(熊本市)
 【重要伝統的建造物群保存地区の新規選定】津島町岩松(愛媛県宇和島市)

「大きな進展」「心から歓迎」 知事・議連事務局長受け止め

 国の文化審議会が旧陸軍被服支廠を国重要文化財(重文)に指定するよう答申したのを受け、広島県の湯崎英彦知事は24日、「価値が認められ、国による今後の支援につながるものであり、大きな進展と考える」とのコメントを出した。

 一貫して保存・活用を訴えてきた自民党の「被爆者救済と核兵器廃絶推進議員連盟」の平口洋事務局長(広島2区)は取材に「大きな一歩だ。被爆の惨禍を伝える建物の価値にお墨付きが与えられ、保存の方向が決まったことを心から歓迎する」と喜んだ。(河野揚、樋口浩二)

(2023年11月25日朝刊掲載)

年別アーカイブ