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社説・コラム

社説 核禁条約会議閉幕 核被害者支援 日本も関与を

 米ニューヨークであった核兵器禁止条約第2回締約国会議が閉幕した。「人類の存亡に関わる核兵器の脅威に対処し、禁止と全廃に取り組む」との政治宣言を採択し、二度と使われないことを保証する唯一の手段は廃絶だと、最終ゴールを改めて明確にした。

 核軍縮と、その先の核廃絶への道筋を確かに示せる場であることを証明していよう。

 核軍縮や不拡散の礎であるはずの核拡散防止条約(NPT)の枠組みは停滞し、核兵器保有国に義務づけた核軍縮交渉が進む気配は全くない。それどころかロシアのウクライナ侵攻や中国による核戦力の増強をきっかけに、保有国や「核の傘」に依存する国が核抑止論を強めている。

 核使用の危機が高まる状況下、核兵器禁止条約の場が対話を踏まえて具体的な行動を決めた意義は大きい。加盟国を増やし、核保有国を協議に引き入れる手がかりになる。

 注目は核兵器の使用や核実験などの被害者への援助と、放射能で汚染された地域の環境回復のため、国際的な信託基金を目指す行動である。

 昨年の第1回会議のウィーン宣言と行動計画に、核被害者の援助を掲げていた。今回は、基金の資金の出どころや配分を作業部会で集中的に議論し、2025年3月の第3回会議までに具体化の勧告をまとめると決定した。

 禁止条約は6、7条で「被害者の援助と環境の修復」を締約国の義務として定めた。核実験や、核兵器や原発の原料となるウラン鉱山での採掘で被曝(ひばく)した人たちの証言が、条約への賛同を増やして制定を促した経緯がある。

 基金の議論は、旧ソ連の核実験場のあったカザフスタンが主導し、米国やオーストラリアなど条約に参加していない国の被害者たちも、実態解明や補償が不十分と訴えた。未参加の国と共通して取り組めるとの意見も出た。期待の大きさがうかがえよう。

 さらに核兵器や核抑止論が安全保障に本当に役に立つのかを専門家が議論し、第3回会議に報告書として出す方針も決めた。ここでもポイントになるのは核の非人道性だろう。被爆者だけでなく、核被害者が証言する核の現実を掘り下げれば、抑止論の脱却を促す議論を深められる。

 戦争被爆国である日本政府こそ条約に参加し、これらの議論に加わる必要がより高まったと言える。核被害者の援助や環境回復は経験や知見を生かせるし、寄せられる期待も大きい。オブザーバー参加したドイツは、北大西洋条約機構(NATO)加盟国で核抑止を支持しながらも、この分野での支援を表明したのは大いに参考になる。

 日本政府は、岸田文雄首相の提唱で始めた有識者の「国際賢人会議」の第3回会合を8、9日に長崎市で開く。核軍縮の議論は重要だが、求められているのは、各国政府による一刻も早い行動だ。

 締約国会議では日本の被爆者やNGO(非政府組織)、若者らが、核被害者の連帯を訴えた。保有国と非保有国の分断が深まる今、政府がとるべき道を示している。

(2023年12月4日朝刊掲載)

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