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ガザに肉親「生きていて」 出身の広島大大学院研究員アメンさん 戦闘再開 終戦の願い届かず

 パレスチナ自治区ガザ出身の広島大大学院研究員、タレク・アメンさん(38)=東広島市=は、古里に住む両親らの身を案じ、胸がつぶれる思いで日々を過ごしている。イスラエル軍とイスラム組織ハマスが一時は戦闘を休止したものの、イスラエル軍は1日に攻撃を再開。「休戦を終戦に」とのアメンさんの望みは砕かれ、さらなる惨劇を危惧している。(小林可奈)

 「両親と電話で話したのは(戦闘開始日の)10月7日が最後」。スマートフォンの通話履歴を示し、アメンさんが力なく話した。イスラエル軍は「ハマス壊滅」を掲げてガザ市民を巻き込む苛烈な空爆と地上侵攻を続けるが、父の目が不自由なこともあり、市内にとどまっている。

 ガザは16年間にわたりイスラエルによって境界を封鎖されていることから「天井のない監獄」と呼ばれる。戦闘開始以降、食料や燃料、電気の遮断や水不足がますます深刻化。医療は崩壊している。「父は目の治療も必要なのに。食べ物は缶詰などでしのいでいるのだろう」。きょうだいもガザに残り、まれに通信が可能になると「生きている」とだけ連絡が届く。消息がいつ途絶えるかも分からない。

 アメンさんは九州大大学院の博士課程で廃水処理技術を研究するため2015年に来日。同じガザ市出身で同大大学院留学生の妻リハムさん(35)や6~10歳の子ども3人と福岡市で生活し、昨年東広島市に移り住んだ。来日して以降、一度も帰郷できていない。末娘のハナちゃん(6)は日本生まれだ。

 アメンさんは毎日、インターネットなどを通じて故郷の状況を追い、破壊された母校や病院、犠牲となる子どもたちをオンライン上で目の当たりにしている。ガザ当局によるとガザ側の死者は既に1万5千人を超える。

 生きていてほしい―。家族の安否に対する不安は募るばかりで「完全に気力を奪われてしまった」という。だが、心から訴えずにはいられない。「これは明らかにジェノサイド(民族や宗教による特定集団の殺害)」だと。

 アメンさんが求めるのは、日本政府はもちろん、国際社会が行動することだ。「パレスチナにはウクライナほど目が向けられていないと感じる。私たちが自由を求め、平和に生きたいと切望する思いは同じ。命の重さに格差はない」

(2023年12月4日朝刊掲載)

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