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「戦後」であり続けるために 映画「ほかげ」の塚本晋也監督 あす広島で舞台あいさつ 民衆目線で戦争の傷痕描く

 敗戦直後の闇市を舞台に、民衆の目線で戦争の傷痕を描いた公開中の映画「ほかげ」。塚本晋也監督は「戦争の痛みを体で知る人がいなくなると戦争へと近づく。若い世代のために『新しい戦前』ではなく『戦後』であり続けてほしい。そんな祈りを込めた映画」と語る。(渡辺敬子)

 半焼けの居酒屋で体を売っている女(趣里)は絶望の中を力なく生きている。やがて空襲で家族を失った男児(塚尾桜雅)、復員兵(河野宏紀)が入り浸る。男児は、片腕が動かない謎の男(森山未来)と出会い、女を置いて旅に出た―。

 大岡昇平の小説を映画化した「野火」(2014年)では極限状態にある戦場の兵士を描いた。本作には、炎を静かに見つめる場面が何度かある。生き残った人々を通して、それぞれの背後に横たわる多くの犠牲者の命を想起させる。1丁の拳銃と孤児が物語をつなぎ、「終わらない戦争」の悲しみを増幅させる。

 NHK連続テレビ小説「ブギウギ」で主演中の趣里。少女のような繊細なたたずまいと同時に、たくましい母性や秘めた狂気を全身で表現した。塚本監督は「体全体が鋭敏なアンテナのよう。役に憑依(ひょうい)し、発するエネルギーの強さが圧倒的」と絶賛する。

 ダンサーでもある森山未来。テキ屋として暗躍する男が抱え続ける葛藤を軽やかながら、すごみのある演技で表現した。

 塚本監督は脚本、編集に加え撮影も手がけた。「俳優の演技が途切れないように、いろいろな角度からワンシーンをワンカットで一気に撮った。僕は一番いい場所から、一番いい表情を縦横無尽に」。高性能の小型カメラを手持ちし、激しい動きにも肉薄している。

 「きな臭いというより、底が抜けたように暴力が噴き出している。どうしても今、描かなければという気持ちだった」。ベネチア国際映画祭でオリゾンティ部門に出品され、最優秀アジア映画賞(NETPAC賞)を受賞した。「映画では、物語の場所も時代も説明していない。いつどこの戦争でもあり得ると感じてもらえる作品になったのかもしれません」

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 サロンシネマ(広島市中区)で3日午後2時40分からの上映後、塚本監督が舞台あいさつする。

(2023年12月2日朝刊掲載)

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