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社説・コラム

朝凪(あさなぎ) 旅立った被爆者の思い

 人間は死んだらどうなるかと、たまに考えてしまう。最近読んだ元内閣官房参与の田坂広志さんの新書によれば、最先端の量子科学では死後も自我意識が残り、世界を見詰め続ける説があるそうだ。

 8月に93歳で天国に旅立った中西巌さんも、ほっとした気持ちで広島を見詰めているだろうか。最大級の被爆建物「旧陸軍被服支廠(ししょう)」で被爆し、全4棟の保存を訴え続けた。この4棟が先月、国の重要文化財に指定される見通しになり、全棟保存が確実となった。

 1月に呉市の自宅を訪ね、被爆証言を聞いた。あの日の悲惨な体験が戦後10年間も夢に出て、うなされたそうだ。「建物を残して核兵器をなくさにゃあならん」。中西さんの願いを大切に、被服支廠の記事を書かなければならないと感じている。(社会担当・河野揚)

(2023年12月7日朝刊掲載)

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