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社説・コラム

『潮流』 原爆ドームの前

■編集委員 道面雅量

 日の落ちた原爆ドーム(広島市中区)前。キャンドル形電飾の明かりが揺れ、地面に並べたメッセージを照らし出す。パレスチナ自治区ガザでの「ジェノサイド(大量虐殺)」をやめよと訴え、有志が毎夕の集いを始めて1カ月を超えた。

 国も民族もさまざまな人が通りかかる。白い紙が用意され、メッセージが多言語で増えていく。私が訪ねた日、イスラエルからの観光客という82歳の男性が見入っていた。「(イスラム組織)ハマスは子どもも年寄りも殺したんだぞ」「戦争継続は当然。ガザは『リセット』すべきだ」と、やや声を落として語った。

 だが、発端となった10月7日のハマスの攻撃もまた、「天井のない監獄」と呼ばれるガザの「リセット」を求めたのではなかったか。分離壁で他者を閉じ込め抑圧しつつ、隣で平和に暮らせはしない。戦争継続は「子どもと年寄り」を含む犠牲をさらに積み上げる。

 原爆ドームに近い広島国際会議場(中区)で先日、ジャーナリストの堀潤さん(46)の講演を聴いた。堀さんは今回の戦火を受け、駐日イスラエル大使を取材している。

 堀さんは大使に、平和をつくる力となるべき「国際社会」とは何かを問うた。大使は国連安全保障理事会の機能不全を語り、イスラエルの理解者としての先進7カ国(G7)を具体例に挙げた。この5月、G7サミットがまさに広島であった。堀さんは聴衆に「あなたにとっての国際社会は?」と問いかけた。

 先に触れたイスラエル人男性と、私はその場で議論はしなかった。しかし、彼が原爆ドームの前で揺れる明かりとメッセージを見たことに意味はあると思う。「国際社会」がそこにある。

(2023年11月23日朝刊掲載)

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