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社説・コラム

天風録 『迎える平和』

 旅の目的になるような名所は数多い。スペインのプラド美術館も、その一つだろう。30年以上前にマドリードを訪れたとき、足を運んだが、年に数日しかない休館日。ゴヤやベラスケスの名画を見られず、がっかりした▲あおりでマドリードの印象は、ガウディの建築物を見て回ったバルセロナに比べて格段に低くなった。もっとも悪いのは当方で、美術館ではない。手軽に情報を得られるネットがまだなかったとはいえ、クリスマス休暇の存在を見過ごしたのだから▲こちらは、受け入れ側の努力不足と難じる声が出るのも仕方なかろう。原爆資料館の長い行列である。海外から来た人も炎天下や寒風の吹く中で1時間近く待たされる。館に入っても混雑して、じっくり見られないとの不満も漏れてくる▲ようやく広島市が対策に乗り出す。ウェブ予約を来年2月から試行すると、きのう明らかにした。長崎の資料館にも先を越されていたが、追い付けそうだ▲せっかく来てくれたのに、がっかりさせて帰すわけにはいかない―。「迎える平和」の趣旨にも反する。開館時間の延長や他の施設での分散展示…旅の目的地に選び続けてもらうため、するべきことはまだ多い。

(2023年12月9日朝刊掲載)

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